あなたと飛雄の五十音。


□く
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青城の校門を出て右に曲がる


そこがいつも私と彼の待ち合わせ場所



『あ、沙織!!!』


キラキラした笑顔を向けてきたこのさわやかイケメンは及川徹



……私の彼氏である



「ごめん、待たせちゃった?」


『ううん、ぜーんぜん待ってないよ』


すっごい優しい


「今日はバレーは?」


『月曜はオフだから沙織とゆっくり帰れる!』


今もさりげなく車道側を歩いてくれてる


『……寄り道しちゃう?』


「うん!!」


最強の彼氏である



……ただ女の子に人気過ぎるのと気が抜けると一気にイケメン要素が消えるのがたまにキズなんだけどね




『今日はどこに行こうか?

いつも沙織には忙しい中試合見に来てもらったり、おいしいお弁当作ってもらってるから及川さん頑張っちゃう!』


「え、えーっと…

徹が行きたいところでいいよ〜」


『え〜

たまにはワガママ言ってよ!』


「でも、ほんとに私は徹と一緒ならどこでも楽しい、から……!」


『……っ』



角を曲がると同時に急に引っ張られる右手


気付いたら壁と徹の間に挟まれていた



『……急にそんな可愛いこと言わないでよ


俺、ほんと、我慢できない……』



私の髪の毛を優しくいじる彼のしっかりした、しなやかな指


もう片方の手は私の顎にふわりと添えられている



「っ、徹!

ここ外……!」


『…わかってる』


「ひ、人来るよ!!!」


『ちょっとだけ』




ゆっくりと重なる唇

でも次第に深く濃密なモノに変わっていく



「……っ、はぁ」


離れていく彼

でも消えない感触


ゆっくりと顔を上げると恥ずかしそうに顔を赤めている徹



『そんな、目で見ないで


……もっと、したくなる』



「と、おる、……」



もう一回キスを再開しようとした2人に突然声がかかった




『おい、かわさん……?』



ん?


その声は


もしかして



『飛雄……』



飛雄くん………!



あからさまに嫌な顔をする徹


『なんでこんなところに飛雄ちゃんがいるのかなぁ〜?』



…いつから彼はいたんだろう



もしかして、見られてた?!



『俺はこれから走ろうかと…


今日烏野の体育館点検入っているんで、』


『ふぅ〜ん

で、いつからいたの?』


『今通りかかったとこッス』


『…なら別にいいや』


『???』



そのやり取りを壁にもたれかかったまま見守る私



……徹と付き合う前、烏野と青城の試合を見に行った時に一目惚れした彼


まさか、ここで会うなんて




どんな顔をしたらいいんだろう


今はもう徹の彼女なのに、


飛雄くんから目が離せない




振り向いた徹が飛雄くんから私を隠すように立ちふさがる



『……及川さん、その人は』


その一言で急に空気が張り詰める


『…彼女』


『……はぁ』


徹の肩越しに飛雄くんと目が合う



彼の顔から表情が消えた気がした




『……藤崎、沙織さん』



急に名前を呼ばれて心臓がきゅっとなる



『なァんで飛雄ちゃんが俺の彼女の名前を知ってるのかなぁ〜?』


笑顔が崩れ始めている徹



『いや、…


この前の青城戦の時に……』



そういえば名前を聞かれたような…


「…こ、こんにちは」


私の微かな声がふわりと宙を舞う


飛雄くんの視線が刺さる


でもそれはいつも徹の取り巻きからいただくものとは違い、なにか優しいものを感じた




『……ッス』



『はぁい、ストップストップ〜

なぁに俺いるのに2人の空間に入ってるのかな〜?

及川サン寂しくて泣いちゃう!』


そう言った彼は本当に悲しそうな顔をしていた




「…、とおr『…今は』」


私の声に飛雄くんの声が被る



『…今はセッターとして俺は及川さんに勝てませんが、

いつか、…


絶対に勝ちます、アンタに』



呟くように、それでいてしっかりとよく通る声が私たち2人に降り注ぐ



『バレーでも、

沙織、さんのことも』



何も言いかえさない徹



『悔しいけど今は及川さんの、彼女かもしれませんが、いつか奪って見せます』



本人と本人の彼氏の前で奪う宣言…?!?!




「あ、あの!」


『…飛雄ちゃん』


ようやく口を開く彼



『…俺は負けるつもりはないよ』



彼の後ろにいても感じる凄まじい殺気


その殺気が飛雄くんにも伝わったのかキッと睨み返すのが見えた



『…、負けません

失礼します』




そう言うと彼は颯爽と去って行った


残された私たちの間にはまだ緊張が走っている



『…沙織』



急に名前を呼ばれて立ちすくむ私



『俺の気持ちは変わらないよ

きっと、ずっと、』


「…うん」


『…でももしその日がきたら、

その時は後悔しない道を選んで』


「………」


『沙織が幸せなら、それは俺の幸せだから、


でも……


今は、

俺のことだけを見て、お願い』




だんだん小さくそして震えている声

顔を上げたまま私の目を見ない彼


その仕草で彼が涙を我慢しているのが分かる



「…徹」


『…ッ!』


ちょっと背伸びをしてゆっくりと徹の顔を両手で包む



「…ブサイク」


『っ、はぁ?!

勝手に顔挟んでおいてブサイクって何?!

ホント及川さん泣いちゃおうかな!!!』



……いつも気丈に振舞っていてニコニコしててしっかりしてるけど


ホントは徹も怖いんだよね、


私も怖い、よ




いつか徹が私から離れていってしまうかもしれない


いつか運命の人と出会ってしまうかもしれない



でも、……

徹との今の時間を大切にしたい




徹の顔に近づき額を合わせ、次に唇にキスを落とす



不意打ちのキスに驚きを隠せない様子の彼



『…初めて沙織からキスしてもらった』


「そういえば…

そうだったかも」


『…もう一回』


もう一回


『……もう一度』


もう一度




彼のおねだりが止まるまでキスをした
 

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