あなたと飛雄の五十音。


□う
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同じ方向に家がある私たちはいつの間にか一緒に帰るようになっていた。



だけど………



この沈黙にいつも耐えられない





何を話せば………!



ネタは尽きてしまったし…




「あ、あのさ、今日は部活で何したの?」



沈黙を破る私。


彼の切れ長の瞳がこちらに向けられる


『今日は………』


彼が気だるそうに口を開く



『今日は日向とずっと速攻練してた』



今日も日向と練習してたんだ…


いいなぁ………




いいなぁ………!?




わ、私は何言ってるんだろう



まさか影山くんとずっと一緒にいたいなんて思っていたなんて……



自分で自分にびっくりしていると隣にあったはずの彼の顔が目の前にきた



『…どうした?』


突然のことでびっくりして声が出ない



『何考えてんだ?』



「な、なにって影山くんのことを……」



何言ってんだ私!!!!!!




『俺がどうしたって?』



心配そうにのぞき込んでいた顔にどんどんいじわるな笑みが広がっていく




『正直に言ってみろよ』




正直に、とは?????


2人だけでこんな帰り道の途中で正直に胸の内を晒してみろと………?




軽く首をかしげる仕草までも絵になる彼




クラスの女の子たちがきゃあきゃあ言うのもわかる




彼から目が離せない





「か、影山くんが好きです」




彼の笑顔に誘われて口から滑り出す言葉たち





影山くんの顔が見れなくて俯いてしまう私






どんな言葉が返ってくるんだろう



どんな顔をしているんだろう




そんなことを考えている私の手に彼のしっかりした骨ばった手が重ねられる




『……沙織』



彼の声に誘われて顔を上げる


そこには後ろの夕日に負けないくらい頬を赤らめている影山くんがいた



「えっ……」


『…!!!』



照れを隠すように目線をそらす彼



『あ、あのさ、』





彼がゆっくり息を吸い口を開く





『うちに来ないか』





突然の言葉にまたフリーズする





『沙織ともっと一緒にいたい……』




彼の口からも正直な言葉たちが零れ落ちる




「うん、いいよ」



思わず笑顔になってしまう私




彼もゆっくり微笑むと今度は自然と手が重なった





なんて幸せな帰り道なんだろう



彼のぬくもりを感じながらいつもは左に曲がる交差点を彼と一緒に右に曲がった

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