お抱えXXX

□一
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 総帥の傍にいつも控えているローブの人物。


 いったい誰なのか、佐久間や源田に聞いても、誰に聞いてもわからなかった。



第1話



「失礼します」


 総帥の部屋に入ると、深緑のローブを着た"誰か"がいた。
 今日は総帥の机の傍にあるパソコンを操作していた。
 総帥はいない。


「総帥は今席を外している。もうすぐ来るとは思うが……」

「そうか、ならば待たせてもらおう」

「あぁ」



 "誰か"は高くも低くもない声で話すため、部内では女性説と男性説の両方が飛び交っている。
 俺は男だと思うから、とりあえず今後は"彼"としておこう。

 彼は俺が総帥と初めて出会った頃から、ずっとローブを着て総帥の傍にいた。
 (その頃(幼少期)は似たような身長だったため、多分歳は近いだろう)
 動きづらい物を着ているはずなのに、てきぱきと機敏に動いていたのは今も変わらない。
 ……………それを見てマントを着始めたのは、誰にも行っていない。

 分かるかもしれないが、彼がフードをとったところを見たことがない。
 どんな髪でどんな顔をしているのか全くわからない。
 ただ、時たま目だけが見えることがある。
 鋭く黒いその目が何を考えているのかはわからない。



「……………」

「………………」

「…………そういえば、雷門という中学校は知っているか?」

「雷門………?」


 雷門…………らいもん……
 確か、………………………いや、


「知らないが、その雷門がどうした」

「………知らないなら、まぁいいや………じゃなかったまぁいい」


 言い直したことには触れないでおこう、彼にもプライドがあるだろう。


「鬼道、来たか」

「総帥」

「お帰りなさい、総帥。資料はできています」

「あぁ」


 彼はスッと紙の束を手渡す。
 総帥はそれにざっと目を通し、後で詳しく見よう、と机に置いた。


「次の対戦相手の話だ。雷門中学校」

「……雷門、ですか」


 雷門。彼はこれを知っていたのだろう。


「そうだ。面白いものが見られるだろう」

「……承知しました。では」

「…………千鶴」

「はい」


 ちづる、と総帥が言うと、彼がパソコンを打つ手を止めて立ち上がった。
 10年近く総帥達と関わっていたが、総帥が彼の名前を呼んだのは初めてだ。
 ちづるというのか…………ますます分からない。


「現段階で手に入れることができた資料だが………正直、いらないと思う」


 1枚の紙を手渡される。
 そこには、【雷門】という表題と数人のデータ――――かなり低い、素人を寄せ集めたような数値が並んでいた。


「人数が11人に満たないが………それでサッカー部全員らしい」

「……わかった」


 彼、ちづるが踵を返し、総帥のもとに向かう。
 これのどこが面白いのだろうか。
 あとから、例えば試合中に何かが来るのだろうか。


「………練習に戻ります」


 一礼をしてドアをくぐる。
 ちづるが総帥の前で机の影に消えたのを目の端で見ながら、フィールドへと足を向けた。
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