逆裁部屋

□拒まないで。
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『成歩堂。私はあの、その…。その様なアレは…。』

『僕が相手じゃ困る…?』

『わ、私にそんな趣味はない!』

今の状況が把握しきれてないが、私は成歩堂に押し倒されている、成歩堂のオフィスのソファで。
先ほどまで他愛のない会話をしながら紅茶を飲んでいたはずなのだが、何をきっかけにか自然と押し倒され冒頭の会話に至っている。
油断も何も成歩堂に警戒なんてしてなかったのもあるが、なんと言うかあまりにも自然に押し倒された事に検事として、いや、男として軽くショックを受けざるを得なかった。

「成歩堂、なんの冗談だ。」

誘うような顔をしながらも彼の真っ黒な瞳は捨てられた子犬の様にすがるような眼差しで揺らいでいた。だから強く押し返す事が出来ないままでいた。

「御剣、僕は…「君は私のかけがえのない友人であり良きライバルだ。」
「………ッ!そうだね、悪ふざけが過ぎたよ。」

何度か口を開けて話さそうとし口を閉じる…少しの沈黙のあと、ふと瞬きをした瞬間の成歩堂の目は何も読み取れない乾いた目をしていた。しかしすぐ にこり と笑うと何事も無かったようにまた他愛のない話に戻った。

(一体何なのだ!今のは!!)

正直、戸惑いや羞恥は有りつつも嫌悪は無かった。むしろ生唾を飲むほど成歩堂の色気にくらりと眩暈までした。

(彼は、私の大事な友人だ。それ以上は駄目だ…!駄目なはずなのに…!)

頭の警報がガンガン鳴っているのを止める術が見付からず、一先ず紅茶を飲んで落ち着こうとした。

「御剣、さっきはごめん。忘れてくれないか?ボクはどうやら疲れてるのかも、最近ちょっと缶詰め状態でまともに出来なくてさ…ははっ、笑っちゃうよな。大事な友人を押し倒すなんて。」

成歩堂も紅茶を飲みながら言うと、フッと伏せ目でティーカップの縁を指でなぞった。

(大事な、友人。)

そこに、ミツルギは重みを感じた。自分は今、困惑している。
成歩堂に押し倒された事に嫌悪は無かったこと、逆にその姿に欲情してしまったこと、それを自ら断ってしまったこと。
そして"大事な友人"としてそのまま止まってしまったこと…を自分が先に言った癖に成歩堂に言われてショックを受けていること。

(このままで、良いのか?私は…。)

何故か悩む前に体が動いていたみたいで、成歩堂のティーカップをソッと取り上げテーブルに戻すと、何事かと驚いた様にこっちを見た成歩堂の唇に自分の唇を押し当てた。
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