ヤシャスィーン
□犀利の旅人
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エクバターナについて入国の手続きをする。マルズバーン二人と運良く出会えた事で恐ろしくスムーズに進んだ。
「さて、どこに宿を取るか」
歩いて回るとシャプール様が立っていた。先ほどの礼を言っておこう、お二人のおかげで楽に入国できたのだから
「シャプール様、先ほどはありがとうございます」
「いや、いい。それよりももう日が暮れる、宿は取ったのか?」
「いえ、2年ほどここに留まるつもりと話せばどこも苦い顔をされてしまって、今夜は野宿かと思われます。せめてこの馬だけでも宿で休ませてやりたいのですが」
「それはダメだ!女人のお前が、野宿など!!」
「ご心配ありがとうございます、ですが女一人で旅するにあたって武術も未熟ではありますが身につけています」
「そうかもしれないが……」
そこでシャプール様が口を閉じて何かを言いたそうにもごもごしている
周りからの視線も痛い、マルズバーンとしてシャプール様も有名だからだろう
「……俺の家にくるか?」
「は?えっ、それは……」
「やらしい意味ではないぞ!!ただ、宿がないならと、部屋はたくさんある!!迷惑をかけるなどは思わなくていい、どうせ誰かが使わねば部屋など意味がないからな」
必死に言葉をつなぐシャプール様が可愛くうつるといえば失礼だろう
「ありがとうございます、ふふっ、お優しい御人ですね。シャプール様は」
「笑うな、案内する」
耳が赤くなったシャプール様についていくと大きな屋敷が目に入った
屋敷に入って、家来に
「馬を頼む、それからこの者の部屋の用意と、服を用意してくれ」
「あの、そこまでしていただかなくとも」
「マルズバーンの屋敷に呼ばれて粗末な扱いをすれば俺が恥をかく、迷惑をかけるなどは思わないでくれ
おい!後は頼んだぞ」
本当に御優しい方だ、あくまで自分の為と仰られるか。侍女たちがどこからともなく現れて手を引かれる
風呂場に連れて行かれて、身を清められ、オイルを塗られ、絹の着物とアクセサリーで飾り付けられ大きな部屋に招待される
そこには、料理が並んでいて侍女がシャプール様の隣に座敷を設ける
「あの、これは……」
「すまん、俺が女を連れて帰ってきたという事であらぬ誤解が」
「なるほど合点がいきました
よければお酌をしてもよろしいか?」
「あぁ、頼む」
盃に葡萄酒を注いで、シャプール様の話を聞きながら食事をする
とは言ってもシャプール様自身あまり口数が多くなく、私が聞いた事に対して答えてくださると言った様子だ。
「シャプール様は博識でいらっしゃる。私の質問に対しわかりやすく教えてくださる、シャプール様の部下は恵まれている」
「そうだろうか、そう思ってくれていればいいがな。名前は楽しめているか?俺はこう、あまり会話が得意ではない。答えられる質問と言ってもパルスの歴史や文化、あとは武芸ぐらいだ。女はもっと別の話が面白いだろう?」
「とんでもない、私は大変楽しませていただいております。私が聞いてばかりでシャプール様のお邪魔になっていないかと心配していたところです」
空になった盃をまた葡萄酒で満たす
それをぐいっと一気に煽ってからじっとこちらを見た
「その心配は無用だ、俺はお前と話すのが楽しい。俺が話すとだいたいは困った顔をして逃げていくからな、男でさえもそうだ」
「そういう者もありましょう、私は異国から来た者です。こちらの食べ物も文化も、何もかもが新鮮で面白い。シャプール様の話はわかりやすく、面白いと私は感じます」
「そうか、よかった」
そうして食事も終わり、部屋まで送ってくれた
「その、夜遅くまですまなかった
長旅で疲れているのに、あと………その……服、似合っている、綺麗だ」
突然の事に顔が赤くなる、シャプール様もきっと酔ってらっしゃるのだろう、急いで背を向けて去っていくシャプール様の背中に声をかける
「ありがとうございます!!良い夢を」
「あぁ、」
と聞こえるか聞こえないかの声がうす暗い廊下から聞こえた