蒲月公英学園
□ダンデライオン
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幾分か暖かくなった風が頬を撫でた。
屋上に続く重い扉を開くと、密告通りの光景が目に飛び込んで来る。
「会長。いい加減にしてください。これじゃ周りに示しがつかないでしょう」
視線の先には、一人の生徒の膝に向かい合わせで跨がった小柄な生徒。
開(はだ)けたシャツの前を押さえて逃げて行くその子をなるべく見ないようにして、僕は必死に冷静を装った。
「何を今更。みんな同じようなことしてんだろ」
「だからですよ。貴方がお手本を……」
「見せたらやめるって?」
「それは……」
動揺は上手く隠せていると思う。
だけど。
意識してクールを装ってはいるけど、内心では胸が潰れそうだった。
この光景は、我が校、蒲月公英学園(ほげつこうえいがくえん)高等部の生徒会長である御子柴(みこしば)君が生徒会長になってから幾度ともなく見て来た光景で、僕の幼なじみでもある御子柴君は、中等部の頃から気に入った子を人気(ひとけ)のない空き教室や屋上に誘い出してはそう言った行為に及ぶようになった。
思春期にこんな閉鎖された場所に閉じ込められているんだし、仕方がないと頭では理解している。
だけど、少なくとも僕はそんな気持ちになったことはないから、本心では全く理解できない。
そんなに頻繁じゃないし、相手も親衛隊の中から不特定に選んでるようだから、表向きには問題ないんだけれど。
だけど、恋人でもなんでもない子とそう言ったことができる神経も僕には理解不能だ。
言い換えると御子柴君には今まで恋人がいないと言うことにはなるんだけれど、それは僕の心の救いにはならなかった。
「つかさ。お前も溜まってんじゃないの?澄ました顔してるけど」
「――っっ」
耳元で俺が抜いてやろうかと囁かれた声を無視して、掴まれた腕を振り払って屋上を後にする。
背後で御子柴君が小さく笑った気配がしたけど、御子柴君が僕を追い掛けて来ることはなかった。