秋桜
□目覚め
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「‥ん‥‥」
心地よくてあたたかい。ずっと沈んでしまいたい程の微睡の最中。徐々に覚醒していく脳が、起きろと信号を出し始めゆっくりと開眼する。
ぼやける視界に入ってきたのは、丸太で出来た天井。
「‥‥ここは?」
隣に人の気配を感じ目を向けると、見知らぬ人物が寝ていた。骨格や髪型から女だろう。当たりを見渡すと、ログハウスのような作りをした家である。住人は彼女一人だけだと、数少ない食器が物語っている。
しかし、何故?
最後の記憶では左腹には穴が開き、出血多量で虫の息だった筈だ。それなのに左腹にはしっかりと筋肉質の感触があり、血も滲むことなく綺麗に包帯が巻かれている。そして重体だった身体は何の痛みすら感じない。薬の影響だろうか。そう記憶を辿り始めた矢先、
『‥助けてやったのに殺気を飛ばすな‥お前のせいでこっちは疲れが取れてないってのに』
ベッドを枕に突っ伏していた女が、頭を抑え不機嫌そうに呟いた。その高圧的な態度と物言いに心の中で舌打ちをする。
(‥なら、助けるなっつーの)
口に出した覚えはないのに、心なしか女の眉間の皺が深くなった気がする。女ははぁとため息をついた後、長い髪を掻き分ける。そこに現れた顔立ちに息を呑んだ。一際目を引くほどの整った容姿だった。
「‥見ない顔なもんで。この傷の処置は君が?ありがとう」
(‥男の癖にキレーな顔だな)
そんな事を思っていると、ニコニコしていた男の表情が変わる。
「‥なんて言うとでも思ったか? ‥なぜ、俺を助けた?」
助けるのに理由が必要なのか?そう思ったが口には出さない。
椅子に腰掛けて、男と向かい合う様な形になる。
『‥私の家の前で死んでたら縁起が悪いでしょ? 助けたのは私の気まぐれ。それに助けて欲しくて家の前に居たんじゃないの?』
「‥ッチ そんなんじゃねぇ」
男は顔を背けて黙ってしまった。
「‥俺が目を開けるまで何日かかった?」
『夜中に見つけたから、まだ1日も経ってない。まぁ家の前に何日前から居たのか知らないけど‥‥あった』
探していた物と水差しをお盆に乗せて、男の前に差し出した。