鈴蘭
□第1話
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1話 帰ってきたくノ一
「はぁ‥やっと着いた」
被っていたフードをめくり、先に聳え立つ大きな門を見て神守葵は安堵の表情を浮かべた。
ここは大国の火の国。そしてこの先にあるのは木ノ葉隠れの里。五大里の中の一つであり、優秀な忍が多く住まう木ノ葉隠れの里は葵の故郷である。
里を離れて長期任務についていた葵は約九年ぶりとなる故郷と故人に思いを募らせていた。
スリーマンセルで任務をこなしていた時の同僚、可愛がってくれた先輩、そしてまだ小さかった里の宝たち。
葵は里にいる者たちの様子を一方的に把握していた。それは手紙を送ってくる祖父のような人物から事細かに詳細が綴られていたからだ。
その中でも里の長である、火影の顔が彫ってある顔岩にペンキで落書きをしたアカデミーの生徒の話には、葵は堪えきれずに吹き出したものだ。
その生徒を始め、里の者たちの日常が綴られた手紙が定期的に届くお陰か、はたまた送り主から一緒に込められている愛情のお陰か離れていても常に里の者たちが傍にいる気がした。
里の為に、そして大切な者のために、葵は里の外から皆を守っていた‥つもりになっていたのだ。
一羽の伝書鳥がいつものように里からの伝令書を引っ提げて来た。そこに書かれていた内容に葵は言葉を失った。
身寄りのない葵を慈しみ育ててくれた祖父のような人物。
━━━三代目火影、猿飛ヒルゼンの訃報と帰還命令がそこには記されていた。
忍には前触れもなく死が訪れるものだと理解しているつもりであった。
それなのにやり場のない感情が奥底から這い上がり、気づけば葵は駆けていた。
早く里に帰りたい。
その一心だけを胸に葵は一ヶ月以上かかる道のりをわずか二週間足らずで越えてきたのだった。
「次!通行証を出してもらえますか」
門番の問いかけで我に返った葵は、あ〜と気まずそうに声を漏らした。
「‥先にどうぞ。少し時間がかかりそうなので」
順番を待っている親子連れに先を譲り、慣れた手つきで伝書鳥を飛ばした。
門番は親子連れの対応を行いながらも視線は葵へと注いでいた。
全身を覆う黒マントにフードを深く被っている、いかにも怪しい人物。
葵は見慣れた自分の格好に違和感を覚えるはずもなく、視線を送る門番に対して訝し目を向ける。
暫くして、伝書鳥が運んできた文を門番に提出したところ酷く驚いた様子でサッと道をあけた。
「失礼しました。どうぞ」
葵は目の前の門をくぐり抜け、数年ぶりの故郷へ帰還したのである。