桔梗
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それから暫く記憶が流れ、この世界に来て紫雲に会ったところで終わった。
「・・・すまなかったの。 辛い過去を思い出させてしまって」
その声と共に意識が戻るような感覚がした。
過去の記憶。あれは全て身に起こった出来事だというのに、清々しい気持ちでいっぱいだった。
私は思い出したのだ。
死にたいんじゃない。生きたいだけなのだと。
この世界の天音凛はただの人間に過ぎない。
幼い頃の父と母に抱かれていた幸せの記憶だけを胸に私はこれからを歩むことが出来る。
「いえ、大丈夫です。これで身の潔白が証明されるのであれば」
「最初から敵だとは思っとらんよ。儂はどんな時でも凛の味方じゃ」
初めから何一つ変わらず暖かい視線を送る火影様に胸がいっぱいだ。
「この世界に来たのも何かの縁じゃ。まずは二か月、ここで過ごしてみんかの?その後で凛の好きな様にしたら良い」
「・・わかりました。二か月はこの里に居ます。その後は私の自由にさせてもらいますからね」
ここで断っても、また同じように繰り返し聞いてくるだろう。
言質は取った。2ヶ月経てば自由になるのだから、それまで火影様の好意に甘えることにした。
火影はホッとしたような顔をして、微笑んでいた。
その後、紅蓮さんと紫雲さんを手招きして何やら話し始めている。
術をかけているのか三人の会話はまるっきり聞こえない。
しかし、紅蓮さんが何かを強く反対しているような態度で火影様に詰め寄っており、紫雲さんは止める事なく傍観者になって見守っている。
いったい何を話しているのだろう。
大きな舌打ちが聞こえ、それが合図かの様に火影様に名前を呼ばれた。