桔梗
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男は火影様に体を向けて鼻で笑った。
「なんでだよ?この里を滅ぼされても同じこと言えんのか?殺したって問題ねーよ。こいつはそれを望んでいる」
彼の言葉にどきりとした。
心の内を全て見透かされているような、こんな感覚は初めてだった。
男が、紅蓮さんが言った言葉は正しかった。
あの時、本当の殺意を向けられて、ああ、やっと死ねる。確かにそう思ったのだから。
もしかしたらそれは本心ではないかもしれない。
でもあの地獄のような日々から抜け出せるのであれば、本心なんてどうでもよかった。
逃げたい、逃げられない。もう終わらせたい。
いっそのこと誰か早く殺して。
確かにそう願っていたんだ。
「そこまでにせい!! お前達の意見は十分理解している ‥しかし木ノ葉に舞い降りた以上、放っておく事も出来ん。凛にはすまぬが、少し術をかけて質問をしても良いかの?」
「はい、もちろん‥」
この場で断る気力も残っていない私は火影様の言葉に頷いた。
◇ ◇
これから火影様がやろうとしていることは私の身の潔白を証明するための術をかけるらしい。
それは私が今まで体験してきた、私の記憶を他者の脳内でも直接感じ取れるものらしい。
火影様が何か唱え終わると、ふわふわ浮いている気分になる。
それから私の意思とは関係なく、さまざまな記憶が蘇った。
地球があり、そのひとつに日本があり、医療や技術が進んでいて、昔は戦争もあり、また忍もいた時代があったこと。今は平和な事。
そして自分自身の過去も、意志とは関係なく蘇った。
私の父は貿易商であり先見の明に優れ、一気に成り上がった父をよく思わない親族がいた。
父の兄である本家当主の私の伯父である。
分家である父は、本家よりも才があってはならない。とそのくだらない理由により殺されたのである。
父が仕事を変えたのも、親族から距離を置いたのも全て私が産まれたからだと伯父は言う。
私のために父と母は奮起した。子供を育てる環境を整えるために、仕事にも精を出した。
私のせいで、父と母は死んでしまったのだと、伯父から知らされた残酷なまでの真実に、私は失望し、生きる糧を失った。
両親の死後、本家に引き取られ父が成した財も明も搾取された。
元々馬が合わず絶縁気味の本家の人間は、私を悪とし幾度となく虐げてきた。
時にはタバコを押しつけられたり、食事は最高でも一日一食、酷い時は二、三日放置されたまま、ただ何の目標もなく生きる屍のような生活を繰り返していた。
一連の映像が蘇る。
ここに親族がいないと理解していても、腕を焼かれる痛み、突き刺さる言葉の数々、日常的な体罰という名の暴力の感覚が体に染み込んでいて震えてしまう。
同じものを見ている三人は何か言うことはないが、ギリリと奥歯を噛み締める音が聞こえた。
それから記憶は中学生へと移り、私に居なくなられては後々面倒だという理由で中学を卒業後、本家と繋がりのある家との結婚も決まっていた。
でっぷりと太った父よりも年上のおじさんとである。
周りからも孤立し、孤独な生活を送る10年分の記憶が客観的に頭の中を流れていく。
心の奥底にしまっていた感情。憤り、悲しみ、そして何も抵抗してこなかった自身に対しての怒りが溢れた。
くやしい。
死んだような顔をして平気で嘘を塗り固めている自分が。
大丈夫と呪いのような言葉を吐く自分が大嫌いだ。
記憶が新しくなっていくにつれてその思いは膨らむばかりである。