桔梗
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終始、無言のまま抱えられ中心部から外れにある建物についた。
ドアの前で下ろしてもらい、紅蓮さんの後に続いて部屋の中へと入った。
「お邪魔します」
外観から小さな家だと思いこんでいたが、部屋の中は以外と広く1LDKの様だ。
立ち尽くしていると、シャツとタオルを渡され浴室に案内された。
「ここが風呂でそこがトイレ。キッチンは勝手に使ってくれ。俺は今から任務に行く」
先ほどまで敵意を向けていたのに、なぜ良くしてくれるのだろうか。
紅蓮さんの心情を理解することは出来ないが、敵意が無いことは素直に嬉しい。
「わかりました。ありがとうございます」
その後すぐに紅蓮さんは出掛けて行った。
勝手に使っても良いと言われたが、本人が居ないのに使うのも気が引ける。
しかし衣服まで用意してもらった手前、そのまま浴室へと向かった。
ー ー ー
どういった原理で動いているかはわからないがシャワーの使い方は前の世界と同じようだった。
部屋の中の物もグルリと拝見した限り時計もテレビもあるし、文字も数字も読める。
現代の暮らしとあまり変わらない様子に少しだけほっとした。
部屋に戻って、ベッドの側面を背もたれにして、床に腰を落とした。
流石にベッドは借りられない。
幸い、寒い冬でもなく、日本で言う初夏のような気温で床はひんやりとして気持ちが良い。
チクタク、チクタクと秒針に耳を傾けながら思う。
長い長い一日だった。
夢のような、自由な世界。
別世界に来るなんて誰が想像しただろう。