許すまじ運命

□3. Long time no see.
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「お父さん!!二兎お兄ちゃんを連れてきたよ!!」


社長室と書かれた扉を開けると、今度は紡の父親が1人。

またノックもしないで…。
紡の父、音晴は苦笑を零しながらも二兎の姿を視界に入れて優しい笑みを浮かべる。
正直、二兎としては複雑な気持ちを隠せない。
辛い時にお世話になっていたのにも関わらず突然消えたのだ。
どの面下げればいいのか分からない。


「二兎君、久しぶりだね。」


そう言って二兎に近付けば、
二兎は何とも言えない顔で勢い良く頭を下げた。


「すみませんでした…!!」


突然の行動に音晴も紡も驚きを隠せないでいると、
二兎はポツリポツリと言葉を作り出す。
10年前、突然何も言わずに引っ越しをした事。
そこから音沙汰無く、突然助けてもらう形になってしまった事。
土下座をする勢いで謝れば、音晴は首を軽く振ってゆっくりと二兎を抱き締めた。



「それは君が謝る事ではないよ。」



君がどれだけ苦労してきたか。
短い間ではあったけれど知っている。
今までお疲れ様。
何が有ったのか話してくれるね?

耳元で低く囁かれた言葉は、
余りにも優しく、心の鎖を優しく溶かしていく。


「っ…!お、おれ…俺…!!」



事のあらましを音晴に伝え、
一緒に持ってきたお金と手紙が入った茶封筒を渡す。
中身を確認した音晴と紡はあまりの内容の酷さに手紙を握り締める。


「こんなの、酷すぎる…っ。」


紡の声が無音の室内に響く。
音晴は前髪を握り締める様に掻き上げ、
自身を落ち着かせる為か深く息を吐いた。



「二兎君。」



スっと上げた音晴の顔は、
あまりに真剣に二兎を見つめるモノだから、二兎も自然と背筋を伸ばす。



「親を捨てる覚悟はあるかい?」




【Long time no see.】




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