許すまじ運命

□3. Long time no see.
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「ん…。」


あれからどれくらい経ったのだろうか。
二兎が目を覚まし、一番に視界に入ったのは幼馴染の姿だった。


「二兎お兄ちゃん…!」

「紡…。」


ぼんやりとした頭の中で、紡の優しい声が反響する。
不意に零れた涙が安堵からなのか何なのか、頬を濡らしていた。


「紡、何だよな…?」

「そうだよ…二兎お兄ちゃん…。」

「そっか…紡かあ…。」


ほろほろと零れだす涙を止める事が出来ず、
二兎は横になりながら、紡の頬に手を伸ばしてふんわりと笑みを浮かべた。
小鳥遊家と別れてから今まで、必死に働いてお金を稼いで。
癒しや心の休まり等無い状況下で、久しぶりに見た幼馴染の顔はどれだけ心に安らぎをもたらすか。


「ん…あれ、えっと…。」


不意に視線をずらせば、
知らない顔が7つ…。(内1人は紡を支えてくれていた人か。)
何方でしょうと困っていると、紡が慌てて口を開く。


「この方達は、えっと、二兎お兄ちゃんを介抱してくれた人達で…!」


お兄ちゃんを此処まで運んでくれた和泉一織さんと、
介抱を手伝ってくれた七瀬陸さん、和泉三月さん。
二階堂大和さん、四葉環さん、逢坂壮五さん、六弥ナギさん。
1人ずつ丁寧に紹介してくれる紡には悪いが、急にイケメンを並べられても目が滑って覚えられない。


「ここまで運んでもらって、尚且つ介抱まで有難う御座います。」


横になっていた体制から身を正して、
俗に言う土下座スタイルでお礼を述べれば、周りがザワリとする。


「二兎お兄ちゃん!?」

「そ、そんなに畏まられても困ります!!」

「え、え?ごめんなさい?」


ただお礼を言っただけなのに此処まで騒がれるとは思っても見なくて、
三つ指を付いて頭を下げるのは可笑しかっただろうかと悩んでしまいそうになる。


「えっと、」

「あ、そうだ!社長…お父さんが二兎お兄ちゃんが目を覚ましたら連れて来てくれって!!」

「あ、お、おう?」

「二兎お兄ちゃん!こっち!!」


そう言って、名乗る暇も与えず紡は二兎の腕を引っ張って部屋から出て行ってしまった。
パタリと閉じた扉を見つめて誰となしに、「変わった兄貴だな。」と言葉を零した。


「マネージャー、何だか生き生きしてたね。」


その言葉を肯定するかの様に沈黙が流れた。





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