許すまじ運命

□1. I can't believe it.
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丁度その日は珍しく休日だった。
すっからかんの家の中を呆然と見つめてどれくらい経ったか。
もはや時間の感覚すら掴めない。


「9時だったわ。」


携帯で時間を確認しても正直どう行動して良いのかも分からない。
もうここ良くありがちな異世界とかなんじゃねーのという気持ちで玄関を開けて閉める。
うん。何も変わらないいつもの風景だった。

ここで漸く体が事態を感知し始めたのか、
嫌な汗がブワリっと体中を気持ち悪く包む。
手汗どころの話ではないぞ。緊急事態だ。


「しゃ…しゃわー…。」


落ち着かせようと着替えを持って風呂場に駆け込む。
冷たい水を頭から被って気持ちを落ち着かせ様にも、落ち着いてる場合かと体が逆に興奮しだす。

グワングワンと揺れだす頭を抑えて、
二兎は急いで服を着て有金を全てと携帯を持って家を飛び出した。
もしかしたらドッキリとか、ドッキリじゃなくてもまだ家の近くに居たりとか。


「なんで電話番号変えてんだよクソ…っ!!!」


父親と母親にこの状況を問いただそうと電話を掛けるも、
2人ともの番号が現在使われて居りませんと耳から脳に伝わる。
時間が経てば経つ程、現実味を帯びてきた現状に頭が更に困惑する。
濡れたまま乾かさずに出てきた髪も気にせず、がむしゃらに足を動かして走る。

走って走って息を吐く暇も無く走った。

だから気付かなかった。
道の角から人が来ていただなんて。




「っ!!」

「きゃっ!!?」


角の先も確認せずに飛び出せば、当然向こうから来る人間とぶつかる。
声からして女性だろうか。

二兎は尻もちをついたものの、相手の女性は連れの男性に支えられた様だった。
まだ混乱する心のどこかで怪我は無さそうだと安心する。
少しだけ余裕が出てきたのだろうか。
それでも頭を軽く振って、自分の親を探さねばと立ち上がる。



「す、みません。急いでいるので…。」


ふらりを立ち上がると、
目の前で未だに支えられている女性が驚いた様に声を上げた。



「二兎、お兄ちゃん…!?」


「え…。」



二兎もその声に驚いて相手の顔を漸く確認した。
目に映ったのは世間一般的には幼馴染と称されるであろう関係の少女の姿。



「つ、むぎ…?」



焦りで暴走していた心がゆっくりと息をしだす。
無意識に深呼吸をして震えた手で目の前の少女に手を伸ばそうとした。
しかしそれよりも早く、少女は支えてくれていた男性の腕から出て二兎の胸の中へと飛び込んだ。
支えていた男性はポカンとした表情で少女と二兎を見ている。
けれど、二兎と少女はそれどころでは無いと言った雰囲気でお互いをキツク抱き締め合う。


「二兎お兄ちゃん…やっと、会えた…っ!」


涙を流す少女の姿に、二兎もポタリと一粒の滴を落とした。
不安で押し潰されそうだった心を優しく抱き締めてくれる少女の存在が温か過ぎたのだ。

涙声で二兎の名前を繰り返す少女の声を最後に、
二兎の視界は黒く深く落ちて行った。




【I can't believe it.】



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