小説

□nepenthes poison.
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朝。まだ何処の店も開いていなく、鳥の囀りが聞こえる少し肌寒い朝。
アンドラスは自室の椅子に腰掛け新聞を読んでいた。テーブルには珈琲が湯気を出している。
朝の日課である行動を今日も済ましていた。

アンドラス「……転移所で自爆テロねぇ……」

誰も居ないため、静寂をまぎらわしたいのか愉しげに声を出しながら新聞の記事を読んでいた。内容は様々な入出国や貨物の輸送等に使われている国際ターミナル転移所にて自爆テロが起きたという事だ。

アンドラス「これじゃぁストラス御兄様も忙しいでしょうねぇ」

クスクスと笑いながら珈琲を口に含んだ。
記事を続けて読むに国際ターミナル転移所で起きた自爆テロの犯人は遺された装飾品やパスポートを見るに海を挟んだ向かいにある国の人物のようだった。
ミラとは外交上あまり良くなく、その国のパスポートなんて入国の許可が降りるわけがない為に始めから自爆の為だけに来たようだ。

アンドラス「あの国も相変わらず落ち着きがないわねぇ」

あの国。自爆テロの犯人の出身地とされる国。国の大きさはそれほどないが膨大な資源と武力のために同盟国が多くある国であり、なにより大きな特徴といえばその国の思想は宗教で支配されていることなのだろう。

その国の名前は、宗教国家《デア・イグニス》。土の女神を唯一神と掲げ、悪魔を徹底的に排除する思考に染まった危険な国。
そんな国が起こした事件。記事を見るに、早速魔王であるストラスは《デア・イグニス》の王に対して今回の件の説明を聞きたく書面を事件が起きたその日の内に送ったらしい。

しかし、その答えは「神の敵である蛮族の国と話すことなど何もない」という事だった。
恐らくは戦争は避けられないだろうということが新聞の見解だった。

アンドラス「これは……テロを命じたのは国家そのものねぇ?稚拙なことぉ」

新聞を折り畳みテーブルに置いて空になったカップを台所に持っていき水につけて置いておく。後で洗うつもりなのだろう。
コンコン。
玄関の方からドアを叩く音が聞こえた。どうやら来客らしい。

アンドラス「………………」

明らかに不機嫌な顔になった。朝は静かにしていたかったようだ。
ドアを開く。するとそこには海の向こうの何処かの国の紫色の民族衣装を着た色黒の女性が立っていた。
チャイナ服という民族衣装らしい。

頭は肩に届かないぐらいの黒い短髪で猫耳のアクセサリーをして口には黒いマスクをしている。
そして、なにより目立つのは豊満な胸だろう。
名前はパイモン=S=ノックス。無音の魔王とも呼ばれるアンドラスの姉だ。どうやら姉妹以上の関係があるようだが。

アンドラス「パイモン……まだ朝よぉ?流石に常識的じゃないと思うんだけどぉ」
パイモン「あははは!御免御免、少し急ぎの用事があったからねー!!」

朝はあまり人を招きたくなかったからか不機嫌そうになるアンドラスと、笑顔で話すパイモン。

アンドラス「……はぁ、良いわぁ。とりあえず上がりなさぁい」
パイモン「お邪魔するよー!!」

足音を鳴らさずに早足で室内に入っていった。それを確認しドアを閉めて鍵をかけた。
部屋に戻ると既にソファーでパイモンは寛いでいた。

アンドラス「本当に自由ねぇ……」
パイモン「そうかな?あ、明後日のデートは何処にいくー?」

胸の隙間からペンと小さなノートを出した

アンドラス「用事ってそれぇ?」
パイモン「いや〜?でもデートが一番大事だし?」

優先順位が怪しいパイモンを呆れた目で見て

アンドラス「先に急用を話なさぁい……」
パイモン「そんなに気になる?ねぇねぇ気になる?」

ズズズイッて感じで迫る

アンドラス「……………はぁ。単に急用次第ではデートの行き先とか変えないとだからよぉ」

反論しながら相手の額を鉄扇で軽くペチペチ叩き

アンドラスとパイモンは姉妹でありながら姉妹以上の関係がある。度々、二人でデートと思われる行為を繰り返している様だ。
近親相姦と呼ばれる行為なのだろうが……このふたりに世間の目は関係ないらしい。

パイモン「あはは〜、じゃあ話すよ。暗殺の依頼が入ったの!!」
アンドラス「……へぇ?詳しく聞こうかしらぁ」

パイモンの仕事は暗殺者。
その卓越した身体能力と自身の血のスキルである無音を多用し任務を全うしている。
主に依頼人は様々な国に居るが、身分に関係なく自分の心が動いた依頼なら王から奴隷に至るまで依頼を引き受けているらしい。

パイモン「標的はね〜」

アンドラスの後ろに立って首にまとわりつく様に抱き付いて

パイモン「宗教国家《デア・イグニス》の元老院のひとり、ジョージ=アルマン!!」
アンドラス「元老院?それは凄いわねぇ?誰からの依頼なのぉ?大体予想はついてるけどぉ」

軽く身体を捻り、後ろの方にいるパイモンを見るアンドラス。

パイモン「ストラス兄ぃだよ!あまりにも外交が上手くいかないからとりあえず元老院に風穴を開けて耳の通りを良くしてあげてーって言ってた!まぁ、私たちは風穴を開ける訳じゃないけど」

予想どおりの答えに「やっぱり」と彼女は呟いた。

アンドラス「私に言うってことは私にも頼みたいのかしらぁ」
パイモン「うん、私の我儘だけどダメかな?」

首を傾げるパイモン。それを見て彼女は軽く息を吐いた。

アンドラス「断る理由もないし良いわよぉ?少し最近、体が鈍ってたしぃ」
パイモン「やった!!」

国家の中枢に関わる人物の暗殺をまるでランニングに付き合うみたいな口振りで話す二人。
それだけ力に自信があるのだろう

アンドラス「いつ潜入するのぉ?」
パイモン「明後日の夜中に。転移陣は既に貼ってあるから安全に国内には潜入出来るよ!!」

転移陣。陣を予め刻んでおくと瞬時に移動できる便利な魔法だ。
これは悪魔や天使、果ては人間すら使える術式のひとつだがノックスの場合は特殊な術式で隠密性に優れた術式で使用が出来て使用時に魔力反応が微量にしかしない為、暗殺やスパイに向いている形となっている。

難点はノックス以外の魂があるものは使用できない事だ。
ついでに1つ補足すると、この転移陣では異世界に移動することは不可能である為、便利ではあるが万能ではないらしい。

アンドラス「相変わらず仕事が早いわねぇ」
パイモン「任務は完璧、完全にがモットーだから!!」

にっこり笑顔をアンドラスに向けて

アンドラス「完璧、完全ねぇ……この前、失敗して牢屋に入ったのは誰だったかしらぁ?」
パイモン「あ、あのときは脚が滑ったというか〜!」
アンドラス「60回も脚が滑るとはいつから世界の地面は凍結したのかしらぁ」

クスクスと笑われてしまい、パイモンは膨れた。

アンドラス「まぁ、今回ばかりは捕まったらダメよぉ?ストラス御兄様の妹だってバレたら国交問題でより最悪な形になるしぃ」
パイモン「わ、わかってるもん!」

膨らましているパイモンの頬を指先でツンツンと突っついて、彼女は楽しげに笑って応える。

アンドラス「ならよぉし。じゃあ私も明後日の夜中までに準備するわねぇ」
パイモン「はーい!私も準備しておくねー!バイバーイ!!」

影に沈み消えた。

アンドラス「あら……どうせだから少しのんびりしていけばいいのに忙しないわねぇ……それにデートの行き先の話をすっかり忘れてるわ」

クスクスと笑った。

アンドラス「パイモンは本当に何かと真っ直ぐでひとつの事を考えると何かしら忘れるのよねぇ。そこが可愛いのだけどぉ」

立ち上がり棚から薬品を取り出す。

アンドラス「今回の獲物は国の偉い人ぉ。元老院と言えば実質、王より立場がある存在なのよねぇ?ミラには居ないけどぉ」

持っていく薬を選定して自身の影に沈めるように仕舞う
先程、パイモンが使ったのは転移魔法の入口を影にしただけの代物。今、アンドラスが使用しているのは一時保管魔法。鞄みたいなものである。

個人差はあるものの大体の悪魔は使える魔法で、入る量も差がある。
アンドラスの場合は大きめのキャリーバックと同じぐらいと考えたら良い質量の様だ。
そこに薬品や武器を仕舞う

アンドラス「毒煙発生装置や毒針の替え、一応回復用の薬品もっと。私たちは死にはしなくても傷付いたら暫く痛みは続くからねぇ。治療できた方が効率的ぃ」

鼻唄を歌いながら楽しげに独り言を放っている。

アンドラス「これでよぉし、明後日が凄く楽しみぃ」

暗殺の準備をあらかた済まし、ふと台所を見ると洗い物が面倒だなと思ったアンドラスであった。
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