小説

□戦場の少女
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ここは戦場。

ミラのある世界線でもデザーリアがある世界線でもない世界。

この国は戦争をしている。

戦争の理由はよくある話。領土と資源の奪い合いと報復の連鎖。

土煙が舞う戦場には朽ちた死体と血で錆び付いた鎧や剣、そして兵士たちの怒号や断末魔の叫びがあった。

そんな世界に彼女は居た。

口には煙草をくわえ、身の丈以上の長さの柄に長い鎖がついた鉄球に、軽装の鎧を纏った銀髪の女性。

鉄球はモーニングスターと呼ばれる武器だ。名前は可愛いが子供の玩具などではない。降り下ろされたら肉は勿論、骨を砕き内臓すら潰す凶悪な武器だ。

そして何より目立つのは、その武器を持っている女性の姿が幼いことだ。

本来ならまだ学校に行っているであろう外見の女性が戦場を闊歩していた。

無論、幼い姿だからといって敵も情け容赦をかけるわけがない。

そんな余裕もないから当たり前なのだが。

敵兵「ウォォォォォォォ!」

闊歩する幼い外見の女性に向け、馬に乗った兵士が槍を構え突撃を仕掛けた。

しかし、槍が彼女の鮮血で染まることはなかった。

女性が跳び上がったからだ。

それも馬の頭を踏み台にして更に跳び、その姿は空高い位置にあった。

その手には降り下ろす体勢でモーニングスターを持っている。

敵兵は槍の側面で受け流そうとしたが、それすら叶わない。

ズドンッと鈍い音を響かすと槍は折れ、トゲの付いた鉄球は敵兵の兜を砕き頭を潰した。

変形した兜からは血と脳の一部がはみ出している。

糸の切れた操り人形の様に馬から落下し、物言わぬ骸となった。

馬は何処かに走り去る。

女性はタバコの煙を吐くと、敵兵たちが撤退していく姿を見た。

どうやら勝ったようだ。

頬に傷のある中年男性「おうクソガキ、また生き延びたか!ハハッ!」

真っ赤な鎧を着た馬に乗り巨大な剣を持つ中年男性に話し掛けられ面倒臭そうに答える女性。

銀髪の女性「うるせェよクソ親父ィ。テメェこそよく生き延びたなァ?」

中年男性の名前はグレアム=レオ。銀髪の女性の養父であり、この戦争の要となっている盗賊まがいの傭兵団である紅命傭兵団の団長を勤める男だ。

グレアム「俺はそう簡単には死なねェぜ?神殺しのグレアム様が雑兵なんぞに遅れをとるかってんだ」

神殺し。

この異名を凄く心地いいと感じ、何時かはその名を継ぎたいと思っている銀髪の女性は、ニヤリと笑った。

銀髪の女性の名前はマルコシアス=レオ。後に、減退の魔王となるノックスだ。

この時のマルコシアスは、自身が魔王の血族とは微塵も想像していなかった。

自分をただ成長が遅いだけの人間だと思い込んでいて、周囲もそう考えていたからだ。

そもそもこの世界に悪魔や神はいない。

本当はいるのかもしれないが、存在が当たり前とはなっていない世界だからこそ悪魔なんてあり得ないと思うわけでもある。

グレアム「で、何人殺った?」

マルコシアス「えェと……257ぐれェ?」

しれっと言うが事実であり、そんな嘘をつく奴ではないと信じているためにグレアムは受け入れる。

グレアム「ほぅ、上等じゃねぇか。そんじゃ片付けたら飯にすっか」

まぁ、グレアム自身も今回は300近く敵の首を刈り取っている為に違和感なんて感じないのかも知れないが。

マルコシアス「あァ、肉を食いてェ」

グレアム「なら肉でも買ってきて焼くか」

そう言うとグレアムは自分の団員たちに骸から武器など金になりそうなものの回収を命じ、二人で拠点としているテントに帰っていった。

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クソガキが痴呆になる前に書きてぇのがあったら書けとか言って紙束を投げてきやがった。

まったく、俺はボケたりしねぇっつーてんのにあのクソガキは。

……まぁ、だが暇潰しに昔のことぐれぇ書いてみるか。

混ざりっけない純正白紙なんて貴重なもんを態々買ってきやがったんだ。使わねぇと勿体ねぇしな。

俺がこのクソガキを拾ったのはいつだったか。

……ああ、そうだ。

確か俺がまだ軍団を旗揚げして間もない時、北方の島国を落として嬉しくて浮き足たってた時だよなぁ。

酒をかっ喰らって千鳥足で橋を渡ってたとき、真っ黒い箱を見つけたんだった。

なんか良いもんが入っていたら盗んで売り払うつもりで開けたんだが、まさかガキが入ってるとはな。

何処のクソッタレが棄てたんだか。テメェのガキは産んだなら育てる義務っつーもんがあるだろうに。

まぁ、俺が知ったことじゃねぇがな。

いつもなら良くて修道院に投げ棄てるか放置するかするが、なんか知らねぇが拾っちまった。

一緒に置いてあったネームプレートに俺の名字を入れてマルコシアス=レオ。

なんか足りねぇ気がしたが、まぁそんな名前で俺が面倒見ることにしたんだ。

部下たちは異常なもんを見る目で見やがったぜ。

俺らしくもねぇ真似をしてんだしな。

まぁ、それも1年過ぎたら日常となったが。

それからろくに病にもかからず、バカみてぇに飯を食ってバカみてぇに寝て成長したな。

っと、そろそろクソガキと朝の訓練があるからここいらで止めとくか。

今日こそは俺から有効打を取りやがれクソガキ……

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