小説

□nepenthes poison.2
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貴賓室に入り、黒革のソファーに腰掛ける二人。
二人に向かい合う形でテーブルを挟んだソファーにフェルも座った。
ソファーの前にあるテーブルにメイドが珈琲を置き、それを二人は飲みながら口を開く。

アンドラス「そぉいえば最近、夜滅派の動きが活発になってるみたいよぉ?」
フェル「本当に迷惑な話ですね……夜滅派についてだけは、あちらも次元移動が可能らしくデザーリアにも度々奇襲を仕掛けてきますし」

滅多に次元移動が出来る存在はいない。しかし、ノックスが次元移動を出来るために夜滅派も何処からか技術を入手し移動するようにしたらしい。
恐らく何処にあるか見当が付かないが、夜滅派の本部にでも可能にする魔方陣か機械が在るのだろう。

アンドラス「デザーリアにもぉ?何があったのぉ?」

詳しく聞いてなかったアンドラスは尋ねる。

フェル「別の国の犯罪者を入国審査を通さずに密入させたり、偽札を流したりですかね」
パイモン「偽札?そんなのどんな意味があるの?」

首を傾げるパイモンを見て、可愛いと思いつつも呆れるアンドラス

アンドラス「一応は王の血族なんだから知っときなさいよぉ。偽札が流通しすぎると国が発行しているお金より多く国に伝わるわよねぇ?それは国としては貨幣価値が低下する素になるから回収する必要性も出るのは解るわよねぇ?」

パイモンは真面目に頷きながら聞いている。

アンドラス「つまり、偽札を持っていた人は損をするわけぇ。そうすると貨幣への信用がなくなり、外貨が優先される事態になるわぁ。外貨が優先され過ぎると次は元々ある自国の貨幣で食材や物を売る際にデメリットも考えて高く販売する事になるわぁ」

パイモン、既によく解ってない。何故か頭から煙が出ている。それを見たフェルは苦笑いしているが、気にせずアンドラスは話を続けている。

アンドラス「まぁ、他にも様々な悪影響が出るけど他国から見ても価値がない貨幣扱いになるから経済的に痛手を負うってことよぉ。貨幣の価値は下がり、物の値段は上がる。そうなると停める事が困難になるような事態になるって訳ぇ」

チラッと横目でパイモンを見ると完全にフリーズしたらしく、頭から煙を出して止まっている。アンドラスは深い溜め息をついた。

フェル「パイモンさんは難しい話は、あまり得意じゃ無いんですね……」
アンドラス「暗殺や兵器に対してなら優秀なんだけどねぇ……」

パイモンのことは無視して更に話をすることにした。

アンドラス「でも、あの夜滅派が少し頭を使って侵攻してくるなんて驚きねぇ?力尽くしか出来ない御馬鹿さんだと思ったのにぃ」
フェル「最近、参謀職に新しい人材が入ったとか尋問した夜滅派の末席が言ってたみたいですよ?」
アンドラス「あら、生け捕りに出来たなんて珍しいわねぇ?❤」

クスクスと笑うアンドラス。夜滅派の末席は基本的に戦況が怪しくなると自爆特攻を実行する傾向にある為、情報を入手できる状態で確保するなんて珍しいという訳だ。

フェル「コルセアが捕まえたんですよー?俺やサレオスだと自爆させなくても加減できずに破壊してしまいますが、コルセアは優秀でして…」

その後、暫くフェルの娘自慢が始まってしまいゲンナリした顔でアンドラスは珈琲を飲んだ。ついでにキルメアの自慢も始まりそうなので、途中で口を挟んで停めた。

アンドラス「珈琲、なくなったからお代わりお願いできるかしらぁ?」
フェル「あ、すいません、俺ばかり話してしまって……」

正気になったフェルがメイドを呼び、新しい珈琲を持ってこさせた。今度は気が向いたらしく、珈琲にミルクと砂糖を入れた。
珈琲の香りとミルクの甘い香りが混ざり、心地よい香りが部屋を包む。

すると漸くパイモンも正気に戻ったらしく、自分の珈琲を飲んだ。

パイモン「結局、なんだか分からないけど夜滅派がヤバイって事?」

散々話した結果が分からない扱いであったことに呆れ顔のアンドラス。

フェル「そうですね。ごり押ししてくる頃よりは少し面倒になったかと思います。とはいえ、まだまだ恐れるべき相手とは言えませんが」

まだノックスに決定的な打撃を与えられる域には到達していない為、少し邪魔な集団だという程度としか感じてない様だ。

アンドラス「まぁいいわぁ。とりあえず調査までまだ時間かかるぅ?」
フェル「あー、どうやら別件の解剖が時間かかってるみたいですのであと2時間程かかるみたいですよ?」

2時間も貴賓室で珈琲を飲み続ける訳にはいかないため、時間を潰す手段を考えた。

アンドラス「なら少し、城下を見て回るわぁ?いい?」
フェル「はい、勿論!俺は政務がありますから同行できませんけど、誰か案内をつけますか?」

フェルの申し出に首を横に振る。

アンドラス「要らないわぁ。デートも兼ねるもの」
パイモン「デート?デート、やったー!!」

急に喜んだパイモンを見て、「俺もたまにはサレオスとデートしようかな」と考えたフェルだった。
二人は見送るフェルに手を振り、2時間程城下を楽しむことにした。

──────────────

ここは城下町。高層ビルやイルミネーションが施されたピカピカ光る看板などがある町だ。
デザーリアの魔王のお膝元は国の誇る技術力を披露するが如く、他国ではあまり考えられないような町並みとなっている。

しかし、この様な町並みになっているのは城下町と国際ターミナル転移所がある地域だけで、他のエリアでは森林や岩地、畑が多い農地もある為、デザーリアの全てが近代化している訳ではないが。アンドラスとパイモンが居るのは商業ビルの1階にある雑貨屋だ。

リザードマンらしい国民が営んでいるらしく、ドラゴンモチーフの雑貨が多数ある。

アンドラス「なぁんか、グレンが喜びそうなお店ねぇ?」
パイモン「あー、あの子、ドラゴンとか好きだからねー」

グレン=F=ノックス。ミラのある世界線に定住している二人の妹だ。今はストラスの使い魔を兼任している為、ミラの魔王城に居住している男勝りな子。
星獣と呼ばれる特殊な力を操り、身体を変異させて戦う上に自身の血の力である黒炎を操ったり出来る戦闘においては優秀な操炎の魔王。

「直情的過ぎて挑発に乗りやすいのが難点だけどねぇ?」とアンドラスはよく言うが、わりと彼女も気に入っているらしい。

アンドラス「所で何を探してるのぉ?視線を見るに気紛れで見てるようには見えないけどぉ」

ちゃんとパイモンの視線を見ながら考えたりしているのは流石、精神操作系の魔王という所か。

パイモン「んー?スキットルを探してるのー」
アンドラス「なにそれ?」

聞き覚えのない物で首を傾げるアンドラス

パイモン「アレだよアレ。こうキュッてしてシュポっとして、タプタプってするアレ」

なんとなく探してるものがあったらお勧めしようと聞いていた店員のリザードマンが「全然分からない」と諦めた。擬音ばかりで分かるわけがないので当たり前だが。
しかし、アンドラスとパイモンの仲ならば、これで足りる様だ。

アンドラス「ああ、ウイスキーボトルのことねぇ?」

それを聞いたリザードマンは「なんで!?アレでなんでわかるん!?」と驚愕している。

パイモン「そうそう♪♪」
アンドラス「でも貴女、あんまりウイスキーなんて飲まないじゃない。なんでスキットルを?」

確かにパイモンは飲酒ぐらいそれなりに嗜むが、ワインやカクテル派でありウイスキーを嗜むことは稀だ。

パイモン「いやぁ、この間ストラス兄ぃの部屋に行ったとき、不注意で愛用のスキットルを壊しちゃってねぇ?」
アンドラス「……そう簡単に壊れるものだとは知らなかったわぁ」

軽く毒を吐くアンドラスと苦笑いするパイモン。スキットルは物に寄るが、スチールやブリキといった硬い金属で作られている。
落としたぐらいで凹むことこそあれど、壊れるとは思えないのだが……

アンドラス「少し凹んだぐらいなら直せるんじゃなぁい?」
パイモン「いや、こう……真ん中から真っ二つになってるんだよね?」

「何があった」という思考でアンドラスとリザードマンの店員は今、一致した。

アンドラス「何をしたら真っ二つになるのよぉ……」
パイモン「あは、あははははは……」

苦笑いをしながら目を反らずパイモン。

アンドラス「はぁ。店員さぁん、そのスキットルとやらはあるぅ?」
リザードマン店員「かなり珍しい品物ですからね……そうですね……すいません、やはり当店では取り扱ってないです」
パイモン「そっかー、残念……」

シュガーの店に行けば確実に在ると思うが、折角デザーリアまで来たのだから探してるだけというのが本音なのかもしれない。

二人は店を出た。

アンドラス「少しお腹が空いたわねぇ」
パイモン「なら、何か食べよー!」

パイモンに手を引かれて歩くアンドラス。嗅覚で食事が出来る場所を探している様だ。
「まるで犬みたいねぇ」と思い、クスクスと笑いながらアンドラスに引っ張られ食事を済ますことに決めたアンドラスであった。
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