小説

□ダークがハク
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「…劣せんせ、これ」
「…有難う。いつ返せばいい」
「いつでも…読めたらでいい」
「わかった。できるだけ早めに読む」
無表情でそうやり取りする彼らを見て、僕達は顔を見合わせた。
「…あの2人って関わりあったんだね」
「意外ですねえ。ダークちゃんの一件もありましたし、近づきがたいと思ってたんですが」
話し終わったハクちゃんが僕達に気づいたらしく、ぱたぱたと近づいてくる。
「…見てたの」
「うん。何してたの?本貸してたみたいだったけど」
「本貸してたの…貸してって言われたから」
「何の本?」
「えっと…ルト神話…」
「ルト神?」
どこかで聞いたような…。
僕は記憶を辿ってみる。
「あちゃー。そりゃダークちゃんご機嫌ナナメだったでしょ」
「うん…やだって言ってた」
「説得したんだ?凄いねえ」
僕が考えている間にも、話は進んでいく。
「でも、あれだね。ハクちゃんはレックスのこと信用してるんだね」
「…うん」
「意外だよ。ダークちゃんはあの子のこと嫌いでしょ?」
「……わたしは、悪い人じゃないと思う」
「なんで?」
ハクちゃんは少し躊躇って、それから言った。
「オークオのこと…助けてくれたから…。そうでしょ……?」
アオが、驚いた気がした。
目を見開いたわけでも、なんでもないけど。
彼女は柔らかく微笑んで、ハクちゃんの頭を撫でる。
「そうだね」
ハクちゃんは、嬉しそうにはにかんだ。
自然と笑みがこぼれる。
「ハクちゃんは、鶏先生のこと好き?」
彼女は少し首を傾げた。
「わかんない」
「そうかぁ」
「でも死んでほしくないよ」
「そうだね」
ハクちゃんが小さく手を振りながら離れていく。
何度も何度も振り返っては、手を振る僕たちを見て嬉しそうに(実際は無表情だったけど、僕にはそう思えた)振りかえす。
「可愛い子でしょう」
「確かにね」
「…ダークちゃんも、良い子なんですよ?」
「うーん、ダークちゃんはアレでしか会ってないからなあ」
アオは「ああ〜…」と苦笑いで頷いた。
「…ていうか、ハクちゃんとダークちゃんってどういう関係?」
アオは言おうか少し迷って、遠慮がちに口を開く。
「えっと…ちょっとややこしい話になるんですけど…」
「うん」
「特殊な二重人格、なんです」
「特殊な」
「はい。基本日中はハクちゃん、夜はダークちゃんなんです。ダークちゃんはずっと“起きて”て、ハクちゃんの記憶も持っています。ハクちゃんの心に話しかけることもできます。でも逆はできません」
「どうして?」
「ダークちゃんになっている時は、ほぼ完全にハクちゃんとは別人なんです」
「でも、二重人格ってことは同一人物じゃん?」
「そうなんですけど、ハクちゃんからダークちゃんに変わる時に、筋力も魔力も、知力も、殆ど全てのステータスが大幅に上がるんです。つまりダークちゃんの方がハクちゃんより何倍も強いから、ダークちゃんはハクちゃんに干渉できてもハクちゃんはダークちゃんに干渉できない。ダークちゃんがハクちゃんに語りかけたりした時以外は」
水だって、高いところから低いところへは行けるけど、低いところから高いところへは行けないでしょう。高いところから吸ったりしない限り。
アオはそう付け加えた。
「それでも、元々の人格はハクちゃんなんですよ」
「よくわかんないな」
「まあ、エナ様にはあまり縁のないことですし」
わからないくらいが丁度いいんじゃないですかね、と笑った。
「まあ、そうだね」
僕も笑い返した。








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