小説

□おとな
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「イヤッフゥーーーーーーーーエ‼」
「待て、世間っ、ちょっと待てって!」
「鶏先生、置いてっちゃいますよー!」
「まりあ!先行っても鍵はどうせ空いてないんだから!ていうかあなた理科室の場所わからないでしょう!」
1時限目が終わり、2時限目との間の休み時間。
僕らは本日2つ目の衝撃映像を目撃していた。
初等部の6年1組が、高等部の廊下を走っている。
理科の授業がある高学年ならば初等部よりも機材の揃っている高等部の理科室に実験に来る場合もあるので、それ自体は珍しくない。
しかしその中には生徒だけでなく、あの鶏先生の姿もあった。
あの日フカユキちゃんに聞いたイメージとはかけ離れている…どころか、むしろ割と生徒と仲が良い方にも思える。
「どういうことだろうか…」
「あっ、アオ!」
「やあ、久し振り。君から話しかけてくるなんて珍しいねえ。どういう風の吹きまわしだい?」
「こっちに背の低い黄緑の髪の男の子が来なかったか?見失ってしまって…」
「んー?それってアキくんのこと?君の真後ろにいる」
「えっ⁉」
鶏先生はばっと後ろを振り返る。
そこには可愛らしい顔立ちの男の子がいた。
「旁くんいつからそこに…」
「大分前ですけど?は?小さすぎて見えなかったってか?うっせーチビで何が悪いッ‼」
「言ってない‼」
どうやら旁アキくんというらしいその男の子、背が低いことがコンプレックスらしい。
顔を歪ませて叫んでいる。
その肩をトントンと叩き、宥める男の子がいた。
「先生にそんな口聞いたら駄目だよ?」
一瞬女の子にも見間違えるような美形。
紺色の髪が、大人びた雰囲気をさらに感じさせた。
「…ちっ、もういい、藍、行くぞ!」
「うんうん。失礼します、先輩方」
「あ、うん」
「またねー」
理科室の方へ連れ立っていく2人を見送って、鶏先生へと視線を戻す。
「おっくん割と馴染めてるね〜?なになに?やっぱり生徒は可愛い〜?」
アオがにやにや笑って鶏先生を小突く。
「馬鹿言うな。僕は最低限の仕事をこなしているだけだ。考えは全く変わっていない」
鶏先生はその手を払って、冷たく言い放つと自分も理科室へと向かった。
「あらまぁ…面倒な子だねえ」
「…何で校長先生は、あの人に担任を任せたのかな?」
「…さあ、何ででしょうねえ。天才の考えは、私なんかにはわかりませんよ」
アオは肩を竦めて言う。
アオならばわかりそうだとも思ったのだが、あえて反論はしなかった。
「…アオ、おはよう」
「あー、ハクちゃん。おはよう、最近どうだい?」
「まあまあ…オールドも結構慣れてきたし…」
「あら、よかったじゃん」
「うん…じゃ、わたし行かないとだから…」
「そうだね、がんばってらー」
ぱたぱたと廊下を駆けていくハクちゃんを見送って、僕達は顔を見合わせる。
「…やっぱり、鶏先生馴染んできてるよね…?オールドって、あれ、鶏先生の名前でしょ?」
「そうですねえ…彼本人はどうであれ、生徒の方は許容出来ているようですね」
「いい流れ、かな?」
「ええ…ふふ、もしかするとおっくんより生徒の方が大人なのかもしれませんね」
アオは大人びた笑みを浮かべる。
彼女は、時々何かを懐かしむような顔をする時がある。
アオがたまに言う「種族の違い」とは何か、僕にはわからないけれど。
もしかすると彼女は、この学校の誰よりも「大人」なのかもしれない、と僕は思った。






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