小説

□高揚
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「おはようエナ!アオ!」
「おはよー菊ちゃん!」
「おはようございますお菊先生」
「……………」
「おはようレックス!ほらエナ様も」
「お、おはようございます」
「……………」
「こら、ちゃんと挨拶しろ!」
「…おはよう」
僕は今の状況が飲み込めないでいる。
華の国から帰ってきていつものように学校に行くと、校門の前に立っていたのはお菊先生……と、劣先生だった。
「え、なんで劣先生が…?」
僕は困惑して尋ねた。
するとお菊先生はにかっと笑って、劣先生は苦い顔をした。
「なんと劣先生が自主的に俺を手伝うと申し出てくれたんだ!」
「…そんな大声で言うことないじゃないですか…」
「ははは!照れんな照れんな!」
お菊先生は見るからに機嫌が良い。
恐らく無関心だった劣先生が学校のことに興味を持ってくれたのが嬉しいのだろう。
「なんか、馴染めてきてるみたいですね、劣先生」
アオがこっそり僕に言う。
僕は確かにと頷いた。
ほかの先生とどうかはわからないが、お菊先生との仲はこの前より確実に良くなっている。
「こりゃ〜なんかあったと思いませんか〜」アオはニヤニヤととても楽しそうだ。
別の言い方をすれば、碌でもないことを企んでそうとも言える。
「首突っ込むのはほどほどにね」
「にゃ!善処します!」
そう言って敬礼の形をとるも、聞く気がないだろうことは明白だ。
「だいたい何かってどんなことさ」
先生たちと別れ、教室に向かう途中でアオに聞く。
「うぅーん、そうですねえ…恋、とか?」
「誰が誰にだよ!当てずっぽうすぎるよ!」
指でハートマークを作るアオ。
僕はつい呆れて反論する。
「本気の恋なら性別など気にできないものですよ」
アオは意地悪く微笑んだ。
僕はアオが何を言っているか理解して、赤くなる。
これは彼女の長所であり短所だな、と思った。
「…御巫くんには内緒だからな」
「わかってますって。理由なしには言いません」
「理由があってもダメ!」
彼女は口を尖らせて不満げにした。
それでもちゃっかりこっそりハートマークは崩していない。
それを僕がじろりと睨むと、彼女はへらへら笑ってそれを解いた。
もう、と呆れた顔をしながら、僕は劣先生がお菊先生を見ていた目を思い出していた。
…どこか、特別なものを見るような。
(…まさか、ね)

俺は上機嫌だった。
理由はほかでもない、劣先生のことだ。
今日の朝。いつも通り校門に立っていたら彼が近づいてきたのだ。
「…ここにいていいですか」
「え、それって手伝ってくれるってことですか!」
「…いいですか」
「全然いいぞ!むしろこっちがお願いしますだ!」
…とまあ、こんな感じで。
どんな心境の変化かはわからないが、嬉しいことに変わりはない。
俺は上機嫌だったのだ。注意力散漫だった、とも言える。
だから俺は気づかなかったのだ。
訪問者の存在にさえ。
「…お菊、先生…ですよね」
振り返ると、美しい男性が立っていた。





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