小説

□湖から
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「はあ…はあ…おい、湖に着いたぞ」
湖のほとりでアオを下ろして、ぺちぺちと頬を叩く。
その時、剣は湖に不自然な波ができている事に気づいた。
波は集まって何本かの触手のようになり、アオに向かってくる。
剣は何となくその波にアオを預けてみた。
水は光り輝いてアオを包む。
すると、水に触れた傷口がどんどん癒えていくのを剣は見た。
「なんだ…これ…」
【…久し振りね】
「…!おまえーーー…」
【私はウンディーネ…あの時は名乗りそびれたけれど…】
「姿を見せないのは相変わらずだな。…それで、これはどういうことなんだ」
【この人は…私達にとってとても大切なひと…】
「…?こいつは、不幸≠カゃないのか?」
【確かにそうだけれど、この人が1番近しくしているのは水のものだから…】
「ああ、魔力的に言えばお前の上ってわけか…」
【そうね。この人が私達を下だなんて考えているかはわからないけれど】
「…考えてねえな、こいつは」
剣は薄く笑う。
【ありがとう、この人を助けてくれて】
「…運命の人なんだと、俺が」
【…ふふ、この人らしい言い方…】
「…なあ、お前があの時言ってた『いつか来るあの人』っていうのはこいつのことか?」
湖はゆらゆらと揺らめく。
アオの傷はもうほぼ治り、水の発する柔らかな光に包まれている。
【…そうね…ただ、誰の為に生きるかは貴方次第よ】
波がアオの身体をほとりへと静かに置く。
ウンディーネはそれ以降話さなかった。
「…帰るか」
剣はぽつりと呟いた。

「…なんか最近、アオが意識失うの多いね」
「…そうだな…って、まだ2回目だろ」
「まあ、そうなんだけどさ」
夜。崩れた城を皆の力を総動員してなんとか主要な部分だけは直した。
後日、ほかの部分と共に再建されるらしい。
沙汰は城の牢に拘束されている。
僕達は事の顛末をつるぎさんや沙汰本人が語った内容から知った。
ここ、華の国というのは、現世で強い思いを残して死んだ人達に、その思いを忘れさせる為にある国らしい。
沙汰は現世でカンナに対する強い執着を持って死に、ここに来た。
そしてここにいたつるぎさんがカンナであることを知り、ほぼ衝動的にこの騒動を引き起こしたらしい。
ただ、つるぎさんの性別を変化させる薬を持っていた辺り、計画的である可能性もある、と兵士の人は言っていた。
僕らはその後予定通り城に泊めてもらえる事になり、今に至る。
それぞれ1人部屋を与えられたものの、僕はアオが気になって寝られない状態だったので、別の布団をアオの部屋に敷いてもらった。
「僕はもう寝るよ。おやすみ、御巫くん」
「ああ、おやすみ」
御巫くんは柔らかく笑って部屋を出て行った。



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