小説

□生ぬるい風の始業式
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薄暗いトンネルの中。
何人もの警官に見張られ、縄や拘束衣で拘束されながら、1人の人物が人口島へと向かっていく。
コツコツと音がして、トンネルに反響していた。
こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ。
その人物は一定の速度で進む。
決して遅らせることも、まして早くすることもしなかった。
ただ、その人物は警官が警戒と怯え、そして軽蔑の眼差しで自分を見ていることに気づくと、口を器具で固定されているかわりに、自由な目で真っ直ぐに見た。
その目は、ひどく冷たかった。
警官は、その目の中に確かな軽蔑の色が混じっているのを感じ取った。強烈な寒気がした。
それでも一行は止まりはしなかった。
その人物が人口島へと送られることに変わりはなかった。


薄暗い部屋の中。
居住スペースのようで、机や椅子、ベッドが置いてあった。
そこに2人の人物が佇んでいた。
「…校長から君へ忠告が1つだけある」
片方が口を開いた。
「後で会った時にも言われると思うけど、一応言っとくね」
もう1人の人物は、聞いているのかいないのか、虚空を見つめていた。
「6年1組及びほかの人間に、決して深入りしないこと」
興味ないとでも言いたげに、首をコキコキとならす。
頭が動くにつれ、頭頂部にあるそこだけ色の違う寝癖のようにはねた一房の髪がゆらゆらと揺れた。
「わかるだろ。…君は普通の鶏じゃない」
そう言われた人物はきゅる、と目を動かしてもう1人を見た。
「何も言いたいことがないなら私はもう行くよ?」
何も言わない。
1人が部屋から出て行こうとする。
扉が閉まる直前、もう1人が初めて沈黙を破った。
「お前も同じか、僕と」
音を立てて扉が閉まった。
扉の向こう、青い猫耳の少女が呟く。
「君はまだ止まれるさ」



全てのどかな春休みのうちの出来事だった。




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