小説

□お菊先生のお仕事〜本島編〜
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「うっ…うまぁああ…!」
「ふふ、美味しいですね」
菊がケーキの味に感動している。
その向かいで青年は柔らかな笑みを浮かべていた。
「あ、そういや名前何ていうんだ?」
「ああ、秀っていいます。あなたは?」
「お…じゃない、私は…」
菊は一瞬悩んで、
「菊だよ」
と言った。
「菊さんですか。可愛い名前ですね」
「え、初めて言われた」
「そうなんですか?…あなたにぴったりだと思いますよ」
「あ、ありがとう…」
社交辞令か本心かを図りかねて、菊はぎこちない笑みを作る。
「仕事とかは、なにしてるんだ?大学生か?」
彼女が聞くと、彼はまたにっこり笑った。
「この近くの大学に通ってます。菊さんは何されてるんですか?」
「私は…一応、先生かな」
「へえ、僕の兄さんも教師なんですよ。教科は?兄さんは社会科なんですけど」
「体育科だよ。頭悪くて」
「でも、先生なだけですごいと思います。僕の兄さんも、小さい頃からずっと面倒見てくれてて。うち、両親いないんですよね」
そう言って、秀は少し寂しそうな表情を見せた。
「そうか…。大変だったんだな」
「僕の話より、あなたの話が聞きたいな。今の女の子でわざわざブラックコーヒーって珍しいですよね?」
聞いて、菊は今更ながらしまったと思った。
(だよな〜、普通に考えてブラックコーヒーなんてそんな飲まねえよな〜)
ついついいつも飲んでいるものを選んでしまったが、ココアとかにした方が良かった気がする。
(まあ俺『今の女の子』じゃねえしな…)
「わ、私今の女の子じゃないからさ、こういうとこで何飲んでいいかわかんなくて…」
苦し紛れにそう言うと、秀は目をぱちくりさせた。
「え、そんなに年上には見えなかったんですけど…よければ、何歳ですか?」
「えっと…今年で29…」
「え!」
「ごめんオバさんで…」
目を逸らして自嘲気味に笑う。
「あ、そういうのじゃなくて…全然、気づかなかったなあって…」
「秀くんは…歳は?」
「僕は今年で19です。まだ若造で…」
(10歳下かよ!わっか…!)
秀は照れたように頬を掻いた。
「でも、29かあ。それならブラックコーヒーって大人な感じだし、合ってますね。僕も飲んでみたいけど、苦くてまだ苦手で…」
「私はだいぶ前から好きなんだけど、職員室のコーヒーメーカーが古くてポンコツで…」
「あはは、不満なんですね」
「まあ、ちょっとな」
少し気持ちがほぐれてきたようだ。
2人は数時間談笑した。
その間に秀に菊のブラックコーヒーのお代わりを飲ませてみたり、好きな物の話など、色々な事を話した。



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