小説

□決意
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「土器の破片…ですか?」
「はい…ありませんか?」
磯辺さんは首を傾げて、私は見たことないですね、と言った。
「でも、何故急にそんなことを?」
事情を説明し、もう一度聞いたこととかありませんか、森に落ちてたとか。と聞くと、
「森に落ちていたら…もしかしたら、金哉くんみたいな、村の子供たちが拾っているかもしれませんね。あの子たちには森を解放していますから」
「金哉くん…ああ!結婚の!」
「結婚?」
「おい!」
「あ、い、いえいえ、何でもないです」
御巫くんに横から肘で小突かれる。
アオは頬を膨らませて笑いを堪えていた。
「そうですか。お役に立てず申し訳ありません」
磯辺さんはすまなさそうにそう言った。
「いえ、ありがとうございました。ちょっと、子供たちに聞いて来ます」
「じゃあ、スイカを冷やしておきますね。今日も暑いですから。今だったら菊と金哉くんは川の近くの公園で喧嘩してると思います。終わるようなら連れてきてください」
そう言って、3人分のタオルと水筒を渡してくれた。
「ありがとうございます、じゃあいってきます!」
「いってきー!」
「ちゃんと言えよ。いってきます!」
「ふふ、いってらっしゃい」
磯辺さんに手を振って台所を出て、玄関に向かう。
2泊目にして、かなりこの家の間取りがつかめてきたところだ。
玄関から外に出ると、眩しさに一瞬目が眩んだ。
セミの鳴き声が聞こえ、あまりのあつさに地面からゆらゆらと熱気が立ち上っている。
境内を少し歩いて、本殿の前の石畳から鳥居をくぐる。
少し小高いところにあるこの神社から村へ降りるため、木陰はあるものの熱せられて熱くなっている石段を降りた。
「えと、川はどっちだったっけ」
「あっちですよ、エナ様」
もらった地図を出して確認しようとすると、アオが指で方向を示す。
「アオ、よく覚えたね?」
「いやぁ、私川とか、水のある場所はわかるんですよね、なんとなく」
「へえ〜、聞いたことないけど、猫の性か何かか?」
「んん〜、たぶん猫は違うと思うな〜。ほら、あれだ!なんか感覚で目的地に行ける人いるじゃん?あれの水場限定バージョンみたいな!実際水場以外は全然わかんないし!」
「便利なのか不便なのかわかんねぇな…」
昨日のことを感じさせないほど、アオは元気だ。
しかし、やはりどこかぎこちないような気もする。
(考えすぎかなあ…)
8歳の時から一緒にいる家族の考えがわからなくて、僕はついため息をついた。
「…大丈夫ですか?エナ様」
アオと御巫くんが心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫。やっぱ暑いなって思って」
磯辺さんから借りたタオルで汗を拭いながら言うと、2人もゲンナリした表情になって、確かに、と声をそろえた。
「公園に着いたら休憩したいですね。…あ、あれでしょうか、あの白い柵の」
アオが指差す方を見ると、確かに白い柵に囲まれた広場があった。
奥の方に滑り台らしきものが見え、手前には鉄棒が光を反射している。
「くっそ!また負けた!」
「んだよ金哉〜〜。もうちょっと粘れよ〜」
「そうだぞー。そんなんじゃいつまでたってもよm…」
「おい!何言おうとしてんだよ!」
「?まあ、自分で負けを認められるようになっただけ進歩ね」
「んだとっ!おない年のくせに大人ぶってんじゃねーぞブース!」
「「菊は可愛いだろうがこの馬鹿餓鬼‼」」
「ひっ!な、なんだよお前ら!わけわかんねーよ!」
「あたしにはわかるからいーの。この2人あたしの友達だもん、ねー」
「「うん!」」
近づくにつれ会話が聞こえてくる。
どうやらメルトちゃんたちもいるようだ。
「エナ様。なんかメルトちゃん金太郎には割と慣れてるっぽくないですか?」
アオが意外そうに言う。
金太郎とはおそらく金哉くんのことだろう。
アオはたまに渾名をつける癖がある。
「やあ、君たち」
「あ!みなさん!」
僕らが公園に入っていくと、菊はこちらに向けてにっこり笑い、金哉くんは手を振った。
ほかの子はきょとんとした顔で僕らを見て、メルトちゃんはハルトちゃんの腕をぎゅっと握った。
「どうかしたの?菊に何か用かしら」
ハルトちゃんが聞いてくる。
僕は初めて彼女とまともに会話をした。
「菊にというか、子供たちにね。ちょっと聞きたいことがあって」
「土色の、土器みたいなものの破片を見なかったか?これくらいの大きさだと思うんだけど」
御巫くんが指で四角形を作る。
子供たちは顔を見合わせてざわざわし始めた。
やがて金哉くんが前に出てきて言った。
「知ってるよ。でも、今もそこにあるかは知らない」
「そうなの?なんで?」
アオが聞くと、金哉くんは少し俯いて話し始めた。
「マサが森で見つけてきてさ。みんながガラクタだって言ったんだけど、あいつ全然それを離さないんだよ。みんな呆れてその日は解散したんだけど、次の日からあいつおかしくてさ。目はギョロギョロしてて赤えし、動作一個一個すげえ大きいし、話しかけてもワアワア喚くばっかで。でも体育の時間になったらスッゲェ記録出して。でもなんか止まれねえみたいで、校舎の窓に突っ込んじまって、そのまま手術して今入院してんだ。マサの母ちゃんに聞いたらずっとそのガラクタ持ってたんだって。風呂も学校も寝るときも、ほんとにずっと。だからなんか俺ら怖くなって、それもっかい森に置いてきたんだよ」
そこまで話した金哉くんは、あんたらなんであんなん探してんだ?と疑わしげに見上げてきた。
「…どうなの?今の話」
「じゅうぶんあり得る。なあ、アオ?」
「うん。手にした魔具の力に釣り合わなさすぎると、そういうことが起こるんです。最悪の場合そのまま死んじゃうこともあります」
それで、どこに置いてきた?
そう言って金哉くんに詰め寄る。
近い近い。距離が近い。
金哉くんはたじろぎながら本殿の裏あたり、と言った。
「あそこに置いてれば、神様が見つけてくれるかなって。前に置いてればチビっ子が持ってっちまうかもしれねぇし」
なるほど、なかなかに考えられる子のようだ。
「ありがとう。行きましょう、2人とも」
「うん」
「おう」
「あ、そうだ。いそべんがみんな終わるようならおいでって言ってたよ。
「じゃあ、一緒に帰ろっと」
そう言って菊がアオの横に並ぶ。メルトちゃんとハルトちゃんも2人を挟む形で並んだ。
結局ついてきたのは金哉くんだけで、ほかの子は宿題しないと、と帰っていった。
ちなみに
「金哉くんは宿題しなくていいの?」
僕が聞くと、
「俺は天才だから1日で終わらせられるんだ」
と返ってきた。
絶対終わらないなと思った。



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