小説

□カンナギ村
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しばらく森の中を歩くと、立派な木造の建物が見えてきた。
「あれがうちの本殿だよ」
「うわぁ…立派だね…」
「まあここいらでは1番大きい神社だしね」
大きな本殿を横切って、もう一つの建物へと向かう。
メルトちゃんとハルトちゃんは、いつの間にかいなくなっていた。
「ここが母屋。ちょっと待ってて、兄さんに言ってくる」
扉を開けて、菊が中へと入っていく。
扉は、からからと気持ち良い音を立てて開いた。
足音と、少しの話し声が聞こえてきたあと、1人の男性が菊と共に出てくる。
黒くつやのある髪をオールバックにしていて、普通の神社で見るような神主の服を着ている。年齢は20代前半だろうか。
菊と似ているといわれれば似ていないこともないが、そもそもの雰囲気が違う気がした。
(綺麗な男のひとだなあ…)
「どうかしたのか、エナ」
見入っていると、御巫くんに声をかけられる。
「べ、べつに、なんでもないよ?」
「…へえ」
…なんか、不機嫌?僕、なんかしたっけ。
「菊、この人たちが?」
「うん!なんか今の時点では帰れないっぽいからさ、うちで面倒見てあげられないかな?」
ねえ兄さん、ダメ?そう言って少し不安そうに菊が見上げると、お兄さんは優しくふわりと微笑んだ。
菊の頭をさらりと撫でる。
「そうだね、いいよ。部屋なんていくらでも余ってる。ぜひ泊まって行ってもらおう」
「やったあ!ありがとう兄さん!」
菊が無邪気に笑って、嬉しそうにお兄さんに抱きつく。
お兄さんは調子いいなぁ、と言いながらも口元を緩ませていた。
「みなさん、ようこそ出神神社に。私は現神主の出神磯辺(いずかみいそべ)と申します」
「あ、陰鳥江那です」
「アオですー」
「覡御巫といいます」
3人順番にぺこりと頭を下げる。
磯辺さんはふと考える目をして、すぐに御巫くんに質問をしてきた。
「かんなぎ…?もしや、あなたがあのカンナギ村の神官さんでしょうか?」
「え、カンナギ村のこと知ってるんですか⁉」
御巫くんがぱっと顔を上げて食い気味にかかる。
「ルト神に仕える神官の間では有名な話ですよ」
「あ、この森の名前もカンナギって…何でですか?」
「それは…少し、長い話になるので…中へどうぞ」
「あ、ハイ」
「お邪魔します」
「どうぞ入ってー!」
僕たちは出神家の扉をくぐった。



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