小説

□進展とかありますか
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御巫くんがこっちに来て1週間経った。
早いことに、彼はもうこの学校に馴染んでいる。
勉強の苦労はやはりあるようだが、毎日先生に質問に行ったり、初等部や中等部の教材で自習をしたりと、頑張って励んでいるように思える。
今はテスト前の自習時間で、勉強している者もいれば、もっぱらおしゃべりに興じている者もいた。
「御巫くんかっこいいよねー」
「あ!わかるそれ〜!」
「え〜やっぱ粕沢くん派かな〜」
「わたし亮くんがいい〜」
……………………まあこのように。
確かに御巫くんはかっこいい。
運動も出来るし、何事にも一生懸命だし、何より優しい。
1週間前に、2度握った彼の手を思い出す。
握り返したその感触を思い返して何故か胸を熱くすると共に、彼女たちに対する確かな優越感も感じていた。





「なあ、やっぱアオってエナのこと好きなのか?」
定期テスト前の自習時間。
御巫くんに勉強を教えてくれと頼まれた。
机を並べて一緒にワークの問題を復習していると、彼が突然そんなことを口にした。
「んん〜?なんで?」
質問に質問で返す。
別に意地悪をしている訳じゃない。
純粋に何故そんな疑問を抱くのか、と問うたのだ。
私にとって彼は崇拝すべき方だ。そのような感情を向ける事など、頭をよぎった事さえ無かった。
「だって尊敬してるじゃないか、エナのこと」
「尊敬と恋情は似て非なるものだよ」
「う〜ん、まぁ、違うならいいけど」
まだ釈然としない様子で、御巫くんは再び問題を解き始めた。
私にとってはもはや意味の無い反復だけれど、やっておいて損は無い。
私ももう一度問題に目を向けた。
応用問題を1つ証明しきった所で、俯きながら上目遣いでレモン色の彼を見る。
先程の質問をした時の、警戒心の混じった目を思い出した。
(心配しなくても、獲りゃしないよ)
私は同時に、彼と女の子が話しているのを見つめる、あの人の不機嫌そうな顔つきも思い出していた。
これはあれか、と心の中で溜息をついた。
(キューピッドなんて、ガラじゃないんだけどなぁ)
「ねぇ御巫くん、エナ様が好きなら応援してあげてもいいけど?」
囁くように声を落として言うと、ばね仕掛けの人形のごとく彼の顔は跳ね上がった。
「なっ、ぁ、なぅ、なんで、」
驚きが隠しきれてなさすぎる。
見えているのは見開かれた片目だけだが、もう片方もおそらく同じようになっているだろう。
「私はね、面白い事と人が幸せになる事が大好物なんだよね」
天使のようにニッコリと微笑んだつもりだったが、彼は悪魔を見ているかのように頬を引きつらせた。
失礼な。
「安心してよ、そういう趣味の人はこの学校に君だけじゃないから」
私はさっと教室の隅に目を向けた。
視線の先は、深緑と紺色。





ぱちっ、と目が合う。
青い髪のそいつはにんまり笑って口をパクパク動かした。
ーーーあとでちょっときてよ。
そう言った(?)ので、こちらもわかった、と口を動かす。
そいつは満足そうに目線を俺から外した。
「どうかしたかい?」
ふと、前方から声がかかる。
そちらを向くと、向かい合わせの机の向かい側で、紺色の髪をもった青年が薄い笑みを浮かべていた。
「…別に」
「アオと話してただろ」
「……………」
わかっているなら聞く必要も無いだろうに。
そう言外に伝えると、ふふ、と笑みを深くした。
男の癖に、妙な色気を感じさせる。
「仲が良いね。好きなのかい」
「……………………」
「別に僕は構わな」
「俺は構う」
奴の言葉を遮って言う。
こいつはこういう所があるからいけない。
「俺はお前が好きだからな。あいつにそんなこと想ってると思われちゃ困る」
さらに言葉を重ねると、だんだん白い耳に赤みが差してくる。
「…冗談だろう」
「下手だな、冗談」
「君よりは上手いさ」
彼は武華亮(たけはなりょう)。この学校の生徒会長。文武両道、眉目秀麗、さらに温厚誠実と三拍子揃った、高等部でも1番の良い男。
そして、この俺粕沢慧(かすさわはる)の恋人。




「え…まじで…」
「まじだよー。うちの会長ホm」
「オイクソ耳ぶち殺すぞ」
「うっわー物騒ぅー」
「口が悪いぞ慧。僕はホモだよ、君が好きだからね」
「…ちっ」
自習時間の終わった休み時間、2人を呼んで御巫くんに紹介すると、御巫くんはあからさまに驚いた様子だった。
「ところでアオ、僕らを紹介したってことは彼もそうなのかい?」
「そうなのだよ「亮の真似すんなクソ」クソはてめぇだろ…エナ様に、ちょっとね」
「ちょっ!アオ!言うなよ!」
御巫くんが焦って私の口を塞ぐが、もう遅い。
それにどうせ言わなきゃなんないのに何を恥ずかしがるのかわからない。
「へぇ…。あのエナくんかぁ、アオがよく許したね?」
「まあねー、諸事情だねー」
「何だソレ」
「藻は黙ってろ」
「んだとアオウミウシ‼」
「仲良いよねー」
「「良くないッ‼」」
「あれ…相談は…?」







諸事情っつーか、たぶん両想い?


 

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