小説

□登校、そして紹介
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「遅いぞお前ら!おっ、そいつが例の転入生か?」
「おはようございますお菊先生」
「御巫くん、この子は菊ちゃんだよ」
「はじめまして、御巫といいます」
「よろしくー…あ、それからお前ら3人教室行く前に高等部の職員室寄ってくれ」
「え、3人ですか」
「おう。俺も行く」
途中御巫くんに街をちょこちょこ紹介しながら歩いていると、学校に着いたのは登校時間ギリギリの8時19分。
いつもの通り校門前に立っていたお菊先生に挨拶をする。
そして先程言われた事に従って、お菊先生が門を閉めるのを待ってから一緒に高等部にある職員室に向かった。
「ここが高等部の職員室だ。職員室としては1番小さいかな」
職員室に入る前に、お菊先生が扉を手で示して言った。
「え、そうなんですか?」
御巫くんが驚いたような声を出す。
「教員不足でな、そんな大勢いないんだ。高等部の中で担任がいるのはTHGAだけだしな」
「THGA…?」
「ああ、特進クラスみたいなもんだ。一定より魔力が強力なやつはそこに入れられる」
「へぇ…」
「まあとりあえず入ろうか」
お菊先生が扉を開ける。僕らは会釈して中に入った。
中には数名の教師がいた。いずれも僕には馴染み深い面々だ。
しかしその中に、あまり見慣れない人も見受けられた。
僕たちが入ってくるのを見ると、各々自分のペースで起立して、順番どうする、とか言いながら横一列に並んだ。
「えーと、この人たちが、高等部の授業を担当してる先生だ」
「うちは教員が少ないから、中等部の先生が高等部の授業も担当してくれてるんだよ」
アオが補足する。
「まずえーと、じゃあ俺からいこうかな」
お菊先生が改めて僕たちの方に(正確には御巫くんの方に)向き直る。
「施設管理職員兼、特別体育講師。お菊先生って呼ばれてる。いつもはだいたい掃除したり、修補したりしてる。校舎や机とかに異常があったら教えてくれ。あと、中等部と高等部の男子保健体育を担当してる。よろしくな!」
「はい、よろしくお願いします」
うん、と答えてからお菊先生は移動して、立っている先生のなかの1番端の、背の低い男性の隣に立った。
この空間にいる人間のなかで、ダントツに背が低い。
群青色の髪と目。前髪を目の上で切りそろえている。大きめの目は冷静さを感じさせた。
「この人は、中等部の宏木先生だ。数学を担当してくれてる。あと、水泳部の顧問だ」
「よろしく」
「よろしくお願いします!」
表情を変えずに手を差し出して、御巫くんがそれに応じる形で握手を交わした。
お菊先生はなぜか嬉しそうにそれを見つめている。
「あ、ちなみに身長は156pだけど、背が低いは禁句だからな!気をつけろよ」
「…菊、お前後で覚えとけよ」
宏木先生がお菊先生を見上げる形でジロリと睨む。
御巫くんは驚いてハラハラしているようだ。
「ロッキーと菊ちゃんはすごい仲良いんだよ」
「ロッキーってまさか宏木先生…?じゃあこれもノリ?」
「ノリだね〜」
アオが補足すると、御巫くんは理解して安心したようだ。
なんだぁ、と言っている。
「まあとりあえず次にいこう」
宏木先生の視線をいなして、お菊先生は宏木先生の隣の先生の斜め前に移動する。
髪は肩の少し上ぐらいで、前髪は僕たちから見て右から左にかき上げている。
生え際の10pほどは紫、それ以外は薄紫色をしている。
黒縁の眼鏡をかけていて、目はやはり髪と同じ色だ。
「中等部英語科の境子先生だ。何種類もの言語を話せるぞ!外国の事に精通してるから、色々話をしたら楽しいんじゃないかな」
「ciao a tutti!よろしくね」
「おお…よろしくお願いします!」
にこりと微笑んで握手をする境子先生。
御巫くんは好奇心を孕んだ目で先生を見つめていた。
「それから、境子先生は野球部の顧問だ」
「好きなのよ、わたし」
「へぇ〜」
お菊先生はまたその隣へ移動した。
今度は男性の先生だ。山吹色の前髪を中央で分けて、バッテンの形のピンで左右両方で留めている。
顔には柔らかみがあって、肌は白く、きめ細かく。そのうえ山吹に焦げ茶色が入った目は大きい。
男性だが、顔だけを見れば女性と言われても通用しそうな見た目だ。
「び、美形ですね…」
「はは…ありがとう、よろしくね」
「はっ、はい…」
御巫くんもたじろいでいる。一瞬、見惚れていたようだ。
…?なんか、モヤモヤする…
「この人は中等部のさつき先生、国語担当だ。字がすごい綺麗だぞ!音読も上手いな」
「菊の字に比べりゃ誰でも達筆だろ」
「なんだと宏ぉ!」
「ま、まあまあ落ち着いて…!」
さっきの仕返しとばかりにお菊先生の言葉にすかさずちょっかいを入れる宏木先生。
途端にバチバチやりだす2人を、さつき先生がたしなめる。
「ロッキーも字綺麗なんだよ」
「へえ〜」
その傍らで、アオと御巫くんはほのぼのした雰囲気だ。
「ちなみに吹奏楽部の顧問だ…じゃあ次にいくぞ!」
「ふん!」
「ああもう…」
お菊先生はさらに隣へ。
さつき先生より少し身長の高い女性が立っている。
肩甲骨の少し上くらいの灰緑の髪が、ふわりとうねっている。目も同じく灰緑だ。
「中等部の銀沢先生。理科担当だ。薬品や生物の知識はピカイチだぞ。髪の毛の量が多すぎるのが悩みだ」
「いま減毛に挑戦中よ」
「へ、へぇ…そこまでには見えませんけど…」
「これは魔法でおさえてんのよー、解いたらこの部屋いっぱいくらいに広がるわ」
「えっすご…」
「ちなみにバスケ部の顧問だ」
「よろしくね」
「あっはい!よろしくお願いします!」
お菊先生はまた隣へ移動する。
その隣の女性は、僕にはあまり馴染みのない人だった。
その人は、特定の教科を持っているわけではない。
あるクラスの、保健体育以外の全ての教科を受け持っている。
焦げ茶色の髪を後ろでひとつにくくり、目は半分しか開いていないが、それでも相当の美人だ。
肘からある、長くて黒い厚手の手袋を着用している。
「この人は高等部の永遠先生だ。THGA組の担任で、そこの保体以外の教科を全て担当してる。あと、テニス部の顧問だ」
「よろしく」
「よろしくお願いします!」
「…うん、これでいる分は終わりかな」
「あと、社会の先生と、女子の保体の先生がいませんね」
御巫くんの言葉に、お菊先生が首をひねる。
「うーん、保体の先生はいるけど、社会の先生が今いないんだよなぁ」
「あれ、そうなんですか」
「うん、教員が足りてないからさ。講師を雇ったりしてるんだ」
「うちの校長、気に入った教員しか雇おうとしないんだよね」
「へぇ〜、凄いんですね、みなさん!」
アオが言うと、御巫くんは感嘆したようにそう言う。
それを聞いた先生達は照れたように微笑んだ。
「次の新卒に良いのがいればいいけどな」
「気に入る基準がまるで分からないですからね」
「厄介よね…選ばれると嬉しいけど。」
宏木先生、さつき先生、境子先生も同意する。
「新卒…そうか、僕らももう高3なんだよなぁ」
「いまさらですか、エナ様」
「高3だったらどうなんだ?」
うんざりしたように言う僕に、 御巫くんが話しかけてくる。
「ああうん、この学校、結構特殊で…」
ついでだからこの学校について説明しようと口を開くと、ガラッ‼と勢いよく扉が開き、大声をあげながら1人の女性が入ってくる。
そしてその傍らにも、1人の女性がついていた。
「この学校についての事なら、私に説明させなさいな‼‼‼‼‼」
「だっ…誰⁉」
大声を出した女性は不敵な笑みでこちらを見ている。
女性というよりはまだ少女のような出で立ちをしている。どう見ても他の先生方の誰よりも年下に見えた。
栗色の髪を後ろの高い位置でリボンでひとつにまとめ、まとめられた髪は腰あたりまで伸びている。前髪は真ん中で分けられ、顔の横に一房ずつ出していた。
他の先生がTシャツやジャージなどを着ているなかで、彼女はカッターシャツに赤いリボン、短いひだスカートと、制服のような服を着ていた。
一緒に来た女性は、土色の髪を短く切って、お菊先生と同じくジャージを着ている。
他の先生と比べ、少し年配に見えた。
「ようこそ転入生‼私がこの未来自由ヶ丘学園スクールの仕組みについて説明させていただくわ‼」
栗色の女性が再び声を張る。
未来自由ヶ丘学園スクールとは、僕らの学校の名前だ。外部からは、「名前が既に頭おかしい」と評判の。
ちなみに彼女が職員室の教員用のデスクに立っているその足にはきっちりとローファーが履かれている。
「ど…土足…!」
どうやら誰も使っていないらしいので先生達は気に留めていないようだが、僕らは混乱を隠しきれなかった。
「ここ未来自由ヶ丘学園スクールは国が予算を出してる公立校なんだけど、公立としては珍しく初等部から大学部まで一貫教育をしてるのよね」
僕らを差し置いて彼女は説明を始める。
「だけど本島の公立とはかなり違うの。…あ、この島のシステムについては聞いた?」
「あ、ハイ」
御巫くん、完全にのまれている。
無理もない。この学校で彼女に逆らえる人は多分いないのだから。
「ここの子達は基本知能が高いから、初等部4年の時から中学校教育を開始してるのよ。で、中等部では高校教育がもう終わるの。高等部はそれらの応用と大学受験の準備をずっとやってるわね、本島の私立と同じね」
「はあ…」
「初等部に入れば高等部まではエスカレーターだけど、大学部に入るのには試験がいるのよ」
「ああ、だから高3は大変なんですね」
「あなたはもっと大変よ?なんせ別の時代から来たんだもの」
「あっ……………」
御巫くんの顔が強張る。
当然だ。ただでさえこの学校はレベルが高い。僕らは初等部からの積み重ねがあるが、御巫くんにはそれが無いのだ。
「まあ私たちも気にかけるし、いざとなれば留年しましょう!」
「嫌ですよ‼」
「あ、ちなみに私は小倉優愛‼ここの学校の校長よ‼よろしくぅ‼‼‼」
「こっ、校長⁉わっか…!じゃなくて、すいませんでした‼」
御巫くんが慌てて頭を下げる。
それもそうだ。一応敬語を使ってはいたが、こんな大きな学校の長に対して「誰だ」などと言ってしまったのだから。
「いーのよいーのよ」
一方、校長は全く気にしていないが。
「あ、それで、こちらは…?」
「あっ‼この人が中等部保健体育科のわたぬき先生だ!」
お菊先生が慌てて紹介する。
「私を忘れるなんていい度胸だねぇ、お菊先生?」
「いっ、いや、別に忘れたわけでは…‼」
同じ保健体育の教師といえど、お菊先生はわたぬき先生に頭が上がらないようだ。
「ああ御巫くん、きみTHGAだから」
「あっはい………軽っ⁉」
「こういう人なんだよ」
「それとエナくん、きみも3年からTHGAに入ってもらうわよ」
「えっ」
「だってそんなに魔力もらってきちゃったら、ねぇ?」
「3人とも同じクラスになれて嬉しいです!」
やっとデスクから降りた校長が、僕らに向かってしれっと言う。
困惑する僕と御巫くんに対し、アオはキラキラと顔を輝かせていた。





驚くほど早いスピードで話が進んだけれど、これから御巫くんと一緒に授業が受けられる。
そう思うと、僕の中の何かがぽんっと跳ねるのだった。



アオ「…わたしは…?」
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