小説

□信奉者
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あれから数十分ほど経っただろう。
時々村の方から轟音が聞こえる。
圧迫感はずっと続いていた。
しかし、ついさっきそれがふっとなくなった。
「どう、なったかな…アオ」
「わからない………圧迫感が消えたな」
「倒したのかな」
「この村から去ったことは明らかだろう……あっ!誰か来るぞ⁉」
向こうから青い髪の人がふらふらと歩いてくる。
「ッアオ‼おーい!」
その人にブンブンと手を振る。
「…おい、待てエナ…あれ、アオか…?」
「えっ?」
もう一度近付いて来る人物を見た。
確かに髪の色は青い。目も恐らく青だろう。
そして遠目からでもわかる、青い、ヒトのそれではない耳。
しかし、ふらふらと揺れるその身体は、男のもののような気がした。
(青髪青目の男…って、昨日言ってたやつじゃ……⁉)
隣の御巫くんを見て、ハッとする。
彼の顔は、驚くほどに蒼白だった。
「あの男…不幸≠フ信奉者、だよな……?」
「う、うん…たぶん…」
「負けた…んだな…みんなは」
「っえ…」
頭を鈍器で殴られたような衝撃がはしる。
負けた。みんなが、負けた。アオが負けた。
アオはどうなったんだろう。
怪我をしたんだろうか。重傷か。軽傷か。
それとも、死んでしまったのか。
「そんな…アオ、アオが…」
「っおい!来るぞ!」
そんな事を考えているうちに、男は僕らのすぐ近くまで来ていた。
男は、とても美しい顔をしていた。
青色の髪と目が、白い頬にかかっていて、儚げな雰囲気を醸し出している。
「………………」
「…え、と」
「…………………お前たちは?」
彼が口を開く。透明感のある、これまた美しい声だった。
それとほぼ同時に、僕らは先ほどと同じ、いやそれ以上の圧迫感を再び感じていた。
「…………っ‼」
ああ、こいつだ。
さっき感じた圧倒的な存在はこいつだ。
「お、おい!」
気づけば僕は声をあげていた。
「さっきの村はどうした!」
「さっきの、村…?ああ、あの老ぼれの率いる雑魚村か」
「なっ………」
御巫くんが目を見開く。
「みんなはどうした…殺したのか!」
「死んだ奴は死んだ。生きてる奴は生きてるさ」
「青い髪の…猫耳の女の子は…」
「…!青い…」
「いたか?殺したか?」
畳み掛けるように言う。
「………………………………」
「どうなんだよ‼」
男はじっと僕らを見つめた。
僕は目をそらしたくなって、それではダメだと睨み返した。
すると、途端に彼はその美しい顔を歪めた。
その目には不快の色がはっきりとうつっていた。
「 」
「っえ、」
「エナ様ッッ‼‼‼‼‼‼‼‼」
「アオ!」
「…!」
男は焦ったようにアオを見て、それから何かをぶつぶつ唱え始めた。
先程のアオが唱えた時のものとは違うものだ。
数瞬、頭がクラクラしてきた。
視界が歪んでいく。気持ち悪い。
乗り物酔いに急になったような感覚に僕は陥った。
御巫くんと繋いだ右手に力を込める。助けて。
彼はまた握り返した。
一瞬意識が遠のく。アオがこちらへ走ってきて、僕と、たぶん御巫くんの腕も掴んだ。
いや、これはアオなんだろうか。
あの男ではないのか。わからない。何も考えられない。
ああ、真っ暗になった。
落ちていく。どこへかはわからないけれど、恐らく悪い方向へ。
再び遠のく意識のなかで、僕は男の言葉を思い出していた。








あのおとこが、不快そうなかおをしながら言ったことば。
不快そうに、それでも心底くるしく、せつなそうに言ったことば。

「ぼくはきずつけるしかできないから」

かれは、あのひとことにどんなこころをこめたのだろう?






 

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