小説

□-出会い-
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三学期も終わりそうな2月の下旬。
高等部2年の僕、陰鳥江那は、きょうも今日とて居候のアオと共に学校に通っていた。
2月の始めに僕の両親が謎の男に消されてから、2週間ほどの時が過ぎている。
「ねえ、アオは学年末どう?自信ある?」
「そうですね〜…まあまあですかね」
「そっか…。悪いけど、今回も見てもらっていいかな…」
アオは、実は物凄く頭が良い。
本人に言うと「いやぁ…まぁ…種族も違いますしね…」と微妙そうに返されるが。
僕もどちらかというと点数は高い方なのだが、どうしても苦手単元というものはある。
そこをアオに教えてもらうのだ。
家でのテスト前勉強会はもはや恒例となっている。
「やっぱ苦手なのは数学かな…あ?」
「おやまあ」
僕たちは住宅街を歩いていたはずだった。
しかし、今いる場所は見渡す限りの草原。
若草色の波が、風に吹かれて揺れている。
「こっ…ここどこだ⁉」
「うーん、迷子ってわけでもなさそうですねー」
「当たり前だ!これが迷子で済んでたまるか!」
慌てふためく僕に対して、アオは全くと言っていいほど動じていない。
「うぅーん、とりあえず歩いてみましょうか。人がいるかもしれません」
「そ、そうだね…」
なんでこいつこんな冷静なんだ。
そう思いながらアオの言う通り歩を進めた。



「あ!エナ様!町…村…村!村です!」
「う、うん…村だね…」
しばらく歩くと、道らしきものが見つかり、それに沿ってさらに歩くと茅ぶき屋根の家がいくつか揃って立っている場所にたどり着いた。
奥の方に石造りの建物が見える。
「まず、ここがどこか聞かないとね」
「そうですね……」
アオはなんだか冴えない顔をしている。
「どうした?」
「あの、わたし、外で待ってます」
初対面の人と話すのは、エナ様の方が良いと思いますから。
そう言って、近くの木の陰に隠れた。
「ああ…、そうだね、ちょっと行ってくるよ」
アオを置いて村に入った。
実はアオの姿は、初対面の人と関わるにはあまり向かない。
というのは、アオのような真っ青な髪や目は、不吉とされていて、偏見や差別の対象となっている。
理由はわからないが、そういうものとされている。
迷信みたいなものなのだが、良い顔をする人は少ない。
それに加え、青のあの耳も問題だ。
青い毛並みの猫は、昔から不幸が動物の姿をとったものとされているのだ。
…わかっている。青い毛並みの猫などいない。
なのであまり問題ではないのだが、アオにとっては死活問題だ。
差別の対象となる理由が集まりすぎている。
それでもあのように明るく生きているのは、彼女の心の強さ、それから周りの人間の性質故に他ならないだろう。
「すいませーん、誰かいますかー?」
「…何の用?」
声をあげると同時に、斜め後ろから声が聞こえた。
そちらを向くと、僕のすぐ後ろに男の子が立っていた。
「うっ、うわぁあ⁉」
「誰、あんた?」
訝しげにこちらを見てくる………至近距離で。
「ぼくっ…、僕は陰鳥、江那。…君は?」
「………御巫」
「みこ、くん?」
「そ。………女みてぇな名前だって、思ってんだろ」
「そっ、そんなことないよ!僕だってエナだよ⁉」
彼の髪の毛は輝かしいレモン色をしていた。右側の目を髪の毛で隠していて、見える左目は深い緑色だった。
「…それも、そうか」
「ところで、ここはどこなの?僕たち、知らない間に来てたから…。ここら辺のこと、全くわからなくて」
「ここか?ここは、カンナギ村だ。…ルト神に仕える、神官の村だ」
「るとしん…?」
聞きなれない単語が出てくる。
それを噛み砕くため反芻すると同時に、わあぁあっと大声が聞こえた。
「何だ…?どうかしましたか‼」
大声で聞きながら走っていく御巫くん。
あっちは…村の入り口かな。
…ん?村の入り口…って…
「貴様ッ!不幸≠フ信奉者か‼」
「ちがうちがう!これっ…コレ偶然!たまたま色素が青っぽかっただけ!てか不幸≠フ信奉者ってなーに⁉わたしどっちかというとラッキー派だよ⁉幸運の魅力に取り憑かれてるよ⁉」
「何わけのわからない事をほざいてんだ!いいからこっちこい‼おい縛れ‼」
「エ…エナ様ーーーーーーーーー‼」
やっぱりアオ…‼
(見つかっちゃったんだ…!隠れてたから余計に誤解が…!)
僕が慌てて入り口へ走り出すと向こうから御巫くんが走ってきた。
「みっ、御巫くんっ!」
「おい…!あっちの青いのあんたの連れか⁉」
「うんうん!とりあえず事情を説明して必要に迫られたら紹介するつもりだったんだけど…!」
「……最悪の事態みてぇだな…」
御巫くんがため息をついて憐れみの目で僕を見る。
「うぅ…どうしよう…」
「とりあえず、あの女の子は牢に入れられるはずだ。今村の幹部は尋問のために牢に集まってる筈だから、俺からお前を紹介してみる」
「あ、ありがとう…!」
「いいよ、別に。なんかお前、悪い事する度胸なさそうだしさ」
「えっ…」
さらっと言われた何気に酷い一言。
傷つく僕を尻目に御巫くんは「いくぞー」と一回り大きくて頑丈そうな石の建物へ向かっていく。どうやらあそこが牢屋のようだ。
「まっ…待ってよ!」
僕は急いで後を追った。



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