□今夜はきっと、泣いてしまう。
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「え、ちょ、忍足先輩?」

「財前って、好きな奴おったん?」 

さっきの独り言をガッツリ聞かれとったみたいで、あんなに小さく言ったのに。

バレたくなかったけど、相手知られへんかったら、まあ、ええか。

「まぁ、はい。」

「ふーん…意外」

「そう、すか?」

「うん、そういうの、興味無さそうやもん。」
         
いつもの大好きな笑顔がない謙也さんの顔に、少し動揺しつつも、準備を進める。 

「今までは、全くなかったんすけどね。」

「俺もおんねん。好きなヤツ。」 

「……へぇ……まぁ、忍足先輩女の子好きそうですもん。」

「はっ、なんやそれ。そんなんちゃうもん。」

表情が緩いだのを見て、俺の緊張も少しは解けたと同時に、また、心臓が騒ぎ始めた。

あぁ、もう、ほんま。
カッコイイ。熱なってまうやん。

「そいつなぁ、俺の事、嫌いかもしれん。」 

そうかぼそく言った謙也さんの表情は、いままで見たことないような、苦しそうな顔しとった。

「てか、別に好きなヤツおるって知ってもうたし、嫌いっていうか、俺に、興味無いと思う。」

「そんな、決めつけんでも。」

そんな決めつけなくたって。
俺だって謙也さんに興味無いふりしとるけど、本当はアンタにしか興味無い。

「決めつけちゃう。他のヤツと、あからさまに態度ちゃうもん。」

「………照れ隠し、かもしれへん。」

「ははっ、照れ、か。」

どうして、

「もう卒業間近やし、片思いのまんまやな。」

どうして、

「せめてあいつの、特別になりたかった。」

どうして、

あんたは。

「そんなに、好きなんですね。」

俺の気も知らないで。






「うん、こんなに人好きになったん、初めてやで。」



「…そんなんなら、告ったほうがええやないですか」

「…………は、」

「それ、絶対後悔しますよって。伝えた方が先輩のためです。」

「ほんとに、そう思っとる?」

はあ?なんでそんなこと聞き返すんや。
意味わからん。

「…思って…ます、けど。」

「さよか。」

「………はい。」

俺の回答に、謙也さんの顔が歪む。
え、なになに。やめてや、こっちも、つらなるやん。

心臓がギュッとしたと思ったら、謙也さんはパッと笑顔になった。

「せやなぁ!もうフラれんの決定やし、今日の放課後言ってまおうかなあ!」

「え、いや、早すぎやないですか?!」

「ええねん、後かて今かて返事は変わらんて!」

「え、で、でも、心の準備とか…」「走り込みしてくるわ!」

「ぇ…………」


心の準備とかいらないんか。
ってか、俺の傷つく準備が…









(あーあ、背中押してもうたな。)


そう心でつぶやいて、俺は軋む心臓をさすった。












(今夜はきっと、泣いてしまう。)
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