本
□止まれ。
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ただの先輩。
アホで、スピードバカで、うるさくて。おまけに純粋。へたれ童貞。
俺は、そう思ってた。そう、しんじたかったんや。
「謙也さん、それ、俺の。」
「へ?ああ、すまんすまん。タオルな。持ってかえってまうとこやったわ。あはは、」
今日、俺が謙也さんにかしたタオルや。わすれたっちゅーから、使用済みしかないですよっていったら、それでももええいうたから、かしたった。優しいわ俺。
「んー、あー、俺、貸してもろたし、洗濯してから返してもええ?」
「?ええですよ?」
おう、
謙也さんはそういって、俺のタオルを丁寧にしまいこんだ。
まあ、なくて困るもんやないし別にいつかえしてもらうんでもええし。
それから、ちゅーかまあ、頻度が上がったちゅうだけやねんけど、謙也さんは俺によく物を借りるようになった。
お互い信頼が合ったし、前なんかは、俺のが借り物をしてた。せやからだめっちゅーわけでも、迷惑っちゅーわけでもないけど、俺は違和感を覚えとったんや。
なぜなら、
「この間、辞書かしてもろたやん?お礼に俺んちこおへん?ぜんざいあんねん。」
こうして毎日俺を誘うから。
「最近毎日毎日なんかしてもろて。わるいやないですか。」
「ええて!お礼やし。それに俺も親が帰ってくるまで一人やしな。頼むわ、寂しいねん。」
こうして、俺はまた、謙也さんちにいく。
なんやねんこれ。いくら謙也さんがいいひとで律儀やからって、どう考えても変やろ。
おまけに、今まで貸してきたタオルやジャージ、筆記用具まで謙也さんのにおいになって。まるで謙也さんが、俺の一部って感じがしてきて・・
あああああ!!
ほんまに意味わからへん!
「光?どしたんそんな険しい顔して。」
「何でもないっすわ。」
「へえ。」
伸びてきた腕がふわふわと俺の頭を撫でる。あんたのせいやろ、と思いながら睨んでも、優しい目はかわらへん。
「なに」
「はは、なにってなんやねん」
「ばか、ばかばか。ばーか、ばーーか。」
「ぶはは!悪口下手くそかいな!」
笑いながら、頭をクシャクシャにしよったから、かかえてたクッションで攻撃する。それでも謙也さんはにこにこして、笑ってた。
「俺、怒ってる。ムカついてる。」
「なんで?」
「しらん。謙也さん嫌いや。」
「でも光は帰らへんのやろ?」
「・・・きも。にやにやすんなや。」
「知ってる。」
結局俺は、謙也さんになだめられてしまった。
夜になってやっぱりおれのもやもやは晴れなかった。イラつきはおさまっても、なんかこう、だあああああって気持ちはそのままやった。
「おまけに寝とるし。このアホ・・・」
「ぐおおおお~・・むにゃ・・ぐおおおお」
俺がお気に入りのDVDを見とったら、ドサッと肩に倒れてきて、ビックリしたけど、DVDは最後まで見させてもらった。
このがっしりとした体を、俺がお姫様だっこしてベッドに運ぶなんてできるはずもなく。横に倒して布団をかけたった。ブランケットも大きいタオルもないし。この部屋どうなっとんねん。ふつうに暑いやろか思ったけど、ひとんちをうろうろするわけにもいかんかったから。
「お邪魔しました・・・」
そういって部屋を出ようとした、その時・・
「!?!?謙也さん?!」
腕を思いっきり引っ張られ、謙也さんの肩に顔を埋める形になってもうた。
暑いせいか、汗ばんだ体が妙になまなましくて。
「ちょ、謙也さんっ!起きて!」
「ぐおおお・・ぐがっ・・・・・ひかるぅ・・」
「謙也さん??」
「・・・・すきやあ・・・・ぐおおお」
・・・・・
「◆●€★▲©〃▼◎□!?!?」
驚きのあまり、謙也さんの腕を払いのけ、尻餅をついてしまった。
ってててか、今俺のこと、すすすすすつ、!!いやちょおまち、文法を考えよう。光ちゅうて、好き・・・・いやいや!確信はもたれへんやろ!!そもそも意味わからへんし!!男とか!!はあ!?勘違いやんなあ!?
「け、謙也さん!!起きてください!!」
「ぐおおお・・・・ん、んー・・」
「謙也さん!ちょっ、うあっ!」
謙也さんにひきよせられ、腕の中に閉じ込められる。身動きがとれなくなり、俺の鼓動は余計早まる。
「・・ ん、あー・・・光、やんなぁ」
「は、はあ?あ、あんた寝ぼけとるんちゃいます?」
「・・・ぅんー、そうかも・・・」
「ちょ、あんた!なにっ!」
俺をさらに強く引き寄せ、シャツに手をいれだした。体をすべての指で優しくなぞられる。俺も俺でぞくぞくして、正直なところ、気持ち良かった。
「・・うぁ、・・ひう・・」
「・・・かわええな」
「やっ・・!そこっ・・・こそばっ・・」
人指し指が胸もとを探り始め、背中が丸くなる。
「け、やさ・・・どしたのっ・・?」
「・・・・・・気持ちええ?」
「そ、・・・なわけ・・・ひっう・・」
「そうやって。」
動いてた手がピタリと止まり、いままで寝ぼけてた謙也さんの声が真剣になった。
「いつでも光は、やめてって言わへんねん。」
「・・・・・・え?」
ダンッ!
目の前が一転し、俺が押し倒されるかたちになった。
おまけに胸ぐらを捕まれ、すごく苦しい。
「・・・なにっ・・」
「なあっ、光!光!俺のもんになってくれ!!なぁ、さっきも俺がすきやからさわらせたんやろ?俺らめっちゃなかええやんかぁっ、毎日俺んちにも来とるしなぁ!!ええやろ!?すきなんやろ!?」
「そんなん一言もっ!・・」
「ほならっ!!なんで止めへんのや!!」
「・・・そんなんっ!・・んんっ!んぅ」
そんなん知らんって言おうとしたら、口を塞がれていえへんかった。俺の唇を吸ったりなめたり、しまいには舌までいれてきよった。
せやけどそれは気持ち良くて、自分からも舌を絡めた。俺が気持ちいいっ思うところを同じようについてやると、胸ぐらを掴んでた手が頭にまわり、繋がりが深くなる。
もっと。もっと欲しい。
そう思った。
首に腕を回し、頭が真っ白になるくらい激しいキスをする。謙也さんの舌を吸って、歯列をなぞる。ぞくぞくして腰がういてまう。
キスってこんなに気持ちいいんや、・・・・
「んんっ・・・ぷはっ!・・・せやからっ!なんでとめへんねん!!」
「はあっ、あんだけしといてっ、よくいいますわ!!」
なんでやめんねん。ええとこやのにっ!
キッと睨みながら、唾液まみれの口元を舐めると、謙也さんが袖拭ってくる。それも涙目で。
「・・・なに」
「せやからっ、なにってなんやねん、」
「・・・・ばか」
「うっさい」
「・・・・・」
「すまんかったわ」
「・・・・別に」
そのあとはずっと沈黙やったけど、途中まで俺を送ってくれはった。ずっと目合わせてくれんけど、明日はいつも通りやとええな。
このまま沈黙で別れるおもっとったら、謙也さんが口を開いた。
「なあ、」
「なん?」
「・・・・ちょっとだけ、」
「へ?」
フワリと、さっきとは違う温もりに包まれた。やさしくて、暖かい。
しかしそれは一瞬で、驚きと同様で下を向いていると
「なんやねんいまさら、かわい」
顎を持ち上げられたと思えば、照れる暇もなく口付けられる。一瞬。でも、すごく優しくて、柔らかい。
「〜〜〜〜〜〜!?!?」
「ほなまたな。」
「ちょっ!!まっ!」
「好きやでー!!」
「は、なんっ・・」
ドキドキするんだ。
なんでかなんて知らない。知りたくない。
そうだ、走って帰ろう。
この胸の高鳴りが、恋だと気づいてしまう前に。
(ドキドキ、止まれ。)