□おそろいのパーカー
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ある週の日曜。
俺、忍足謙也は、ひとつシワなく並ぶ二枚のペアルックの前で、葛藤を繰り広げている。

なんでペアルックの前っちゅーとな、結論を言うと、まあ、最愛の恋人である後輩、財前光とこれをきたいからやー!
ぶっちゃけ恋人同士なんやから、ペアルックぐらい当たり前やと思うけど。
でも、あの財前が、そんなラブラブあまあまな事をしてくれるかというのが、問題や。
付き合って半年、抱き締めたり、キスもした。それだけでも恋人らしいけど、俺はもっと光とラブラブになりたいんや。
やから今日は、オサムちゃんが出張で部活がない日を使って、光と俺で着るペアルックを見に来たんや。……来たのはええんやけど、今更になって悩んどる。

もしも買って、光に渡した所で、光はどう思うだろうか。いや、どう思うというよりは、どんな反応をするだろうか。
もしも笑ってくれなかったら。照れてくれなかったら。
光は口では「キモイ」「ウザイ」と言うものの、本当に嫌な時しか「嫌だ」とは言わない。
せやから、もしも嫌だと言われたら、どうしたらええんやろ。

赤と青の二種類のペアルックを手で持って並べ、顔をしかめた。

(先に相談した方が良かったんやろか。)



「……謙也さん?」

「……え?」
聞きなれた声に振り返ると、そこには見慣れた、しかし飽きることのない可愛い恋人の顔があった。
なんでこんなところに?いや、服を見に来た以外あらへんか。
「お、おう。奇遇やな。」
「はあ。……謙也さんってこんなおしゃれな店来るんですね、以外。」
そう言って俺の隣で服をかき分け始めた。
普段より無防備な服装に、少し興奮するが、場所も場所やから、ぐっと服を強く握った。
ってかここあれやけど、ペアルックの類のところやけど。ええんかな。
「謙也さん、それ……」
手に持っている物を指差し、俺の顔をまじまじ見てくる。
ああ、隠すのも忘れとった。
「い、いや、これは、その、」
なんとか誤魔化そうと必死になるが、動揺を隠せずに、いやとこ、そのとか、意味の無い言葉を繰り返す。
「それ、買うんですか。」
「う、ううん!買わん買わん!」
「そなら、」

それ、俺に買わせてくれませんか?

「…………え?」
予想外の恋人の発言に、俺は空いた口が塞がらなくなった。
「えっ、なんで?」
「なんでって、あんたと着る以外ないじゃないですか。」
た、確かに。
ってかエエエエエエエエエエ?!?!?!?!
「え、何、それは、光は俺と、ペアルックしたいんか?!」
「はあ。恋人ですからね。」
表情1つ変えずに、淡々と質問に答える。
普段光は、さっきから言ってるように、ペアルックなんてしたがらない奴だ。
もう、予想外過ぎてほんとにヤバイ。

「……いやですか?」
慌てとる俺の様子を見て、恋人は不思議そうに覗き込む。俺が嫌がってるのかもととったのか、少し困った様子でこちらを見た。
「そんなわけないやろ!!!めっちゃ嬉しいわ!!!光大好き!!!」
「はあ?!?!?!うざっ!言い過ぎっすわ!!!」
真赤になって、でも、それをレジまで運ぶ姿が可愛くて、後から肩を組むと弾かれた。
それもどうしようもなく可愛くて、この後は家に誘おうかな、なんて考えた。

赤は光の。青は俺の。
光は俺のやから、金は俺が払わんとな。
そう心で呟いて、愛しい彼が財布を出す前に、俺はバッグに手を突っ込んだ。

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