□好きと叫べば。
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「謙也さん」

あなたの名前

「おう、財前」

あなたの声。
俺を呼ぶ、声。

「ちょう待っとって。」

たくましい体。
骨張った手。

言い出せば突きないであろう、俺が謙也さんの好きなところ。
探しながら、叫べない思いが胸が締め付ける。

俺がテニス部に入部してはや三ヶ月。
それまで恋愛に全く興味のなかった俺が、なんと、彼に、忍足謙也に一目惚れしてもうたんや。最初はさすがに動揺したけど、認めてしまえばあっというまで、今では彼にぞっこんや。

最初っから諦めとった恋やけど、やっぱり、進展はしたい。
せやから俺は何とか好かれようと、身近にいることを意識した。
したらそれが彼に察し付いたらしく、帰りも誘ってくれるようなった。

ダブルスも組めて、幸せいっぱいや。俺。

「帰ろ、財前。」

「あ、はい。」

そしてテニスバックを肩にかけた彼はお疲れ、と皆に手を振りながら、ざわつきをかき分けてった。
ちょいちょい俺を気にしてるのも、キュンとする。




「なあ、財前。」

「はい。」

学校から少し離れたところにある、静かで小さな公園で、並んでベンチに座っていた。

「俺と財前が会ってから、三ヶ月たったやんなぁ。」

「はあ?」

何を言ってるんだこの人は。
まるで恋人の三ヶ月、みたいに。あんたはいちいち友達とで会って何ヶ月か気にするめんどいひとなんかい。

「せやからさあ、明日。一緒に出かけへん?」

「えっ?」

別に、嫌ならええけど。

しれっとその言葉を吐いた謙也さんに対し、俺は動揺を隠せてへん。
まさかの、まさかの、まさかの。
お、さ、そ、い、。

友人としてでも、それはとてもうれしいことで、
俺の頭のなかはうれしいと動揺で大混乱や。

「ええです、行きます。行きたいです。」

「おう、どこ行きたい?財前の好きな場所でええよ。」

「えと、じゃあ……」

謙也さんと行きたいところ?
例えば、映画とか?あーでも、謙也さんと話せる時間がない。
遊園地。いやあかん。俺早い系苦手やもん。この人絶対すきやで。そう言うの。
せやったら、動物園。あーあかん、俺動物苦手やねん。他になにがあるやろ……

俺の好きなところなら、どこでもええんかな?ええなら、行きたいところあるけど……

「あの、俺、謙也さんの家、行きたい。」

「え?ええの?よく来とるやん、どっか遠くとか、広いとこ……」

「ええんです、あんたんちがええんや。」

「そ、そか。なら、10時にうちきて。」

はい、一つ返事で頷いて、うれしさに顔をふせた。










ーーーーーーーーーーーーーー

「失礼します、」

「おう、入り。」

久しぶりに来た謙也さんの部屋は、きれい、とはいえないが、ものは減ったような気がした。いつもは適当に投げ捨てられとるふとんがきれいに敷いてあり、ベッドに座るのも気が引けたので、仕方なくベッドに寄りかかるように正座した。

「ジュース持ってくるけど、何飲む?ファンタと、コーラと、青汁と−、あと、ソーダもあったような?」

どんだけ炭酸飲料やねん。突っ込みどころ多いわ。

「……お茶ってあります?」

「おう、麦茶ならあるでぇ!」

「じゃあ、それで。」

そして彼はにっこり笑うと、猛ダッシュで階段を降りてった。

静かになった部屋で、謙也さんの部屋を眺めると、好きな人の部屋、というだけで心が温かくなった。隣にあったクッションに顔を埋めて、彼のにおいを吸い込む。

(あかん、癖になる。)

好きなんだから仕方ない、そう心で言い訳をして、もう一度吸い込む。
ちょっと、興奮するかも。
自覚すると、ほおが熱くなった。

「財前?」

「うわっ!」

名前を呼ばれた衝撃で、枕を遠くへぶん投げると、謙也さんは不思議そうな顔をして部屋の入り口に立っていた。

「何でもないですっ!!!クッションにありがついてたから!!」

「そ、そーなんか。こっちがビックリしたやないか……」

「す、すいません……」

「ええてええて。それより、麦茶持ってきたで。」

「ありがとうございます…」

ばくばくしている心臓を誤魔化すように、首をかきむしり、また正座をし直した。
そういえば謙也さん、私服かっこええなぁ。
俺が感心するはず、家にいるというのに、謙也さんはいつもより高そうで、おしゃれな服装や。なんやもう、無駄にきゅんきゅんすんねや。

「そういえば財前、家ん中なのに結構おしゃれやなぁ」

「え、そうすか?」

「ええなぁ、そのシャツ。高そー。」

「まあ、安ないです。」

俺がこんな高い服を着ているのも、謙也さん見合うようにがんばってる証拠や。
あんたがおしゃれすぎるから、俺かて必死なんや。

それにあんたに、その、綺麗とか、思われたいやん。
我ながら健気や…。



今日一日俺らは、ゲームやったり、飯食って、テレビ見てぐーたらしたり、まあ、楽しかった。
一日は本間にあっと言う間で、まあまた明日も部活で会えるけど、寂しくないといったら嘘になる。いや、寂しい、かな。
楽しかったなーと、今日の会話を振り返った。それにニヤニヤしてる自分に苦笑いしてしまう。

『今日はありがとうございました。おやすみなさい。』

一言、メッセージを送るとすぐ既読がついて、『こちらこそ、おやすみ。』と、優しい返信が返ってきた。
明日また、あなたの声が聞きたいな。
明日の彼の笑顔を願って、俺は重いまぶたを降ろした。
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