□僕がキミに出来ること。
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俺が、ヒカルに出来ること。


あいつが入部してから、俺は一目惚れして、叶わん分かってても思いが止まらんなってもうて、口がすべったように告った。

その場ではめっちゃ後悔したけど、なんとは返事はオーケーで、見事お付き合い開始。

そんな調子で付き合い始めた俺らやけど、最近俺には考え深い事がある。

それは、俺が、光のためになれているかどうかや。

俺的に光は、どんなに迷惑かけられても、どんなにヘリクツや文句言われても、そばにおってくれるだけでいい。

それでも光は、ちゃうと思う。

光は、俺の告白やそのほかの誘いすべて、気だるげに返事をしとった。

誰に対してもそうやし、俺だけが気にするのもおかしいけど、やっぱりどんなくだらなくても少しがっかりする。

とにかく、光は俺がそばにいるだけじゃアカンって思っとるはずやねん。

根拠はないけど、様子を見ればわかる。

せやから俺は、俺が光に出来ることを考えるようになったんや。

光の相談に乗ろ思っても、光は話してくれんし、奢ってやるっちゅーても、貢ぎたいわけちゃうし、遠慮しとくと断れてまう。

ほんまに、出来ることなんて何もない。

それなのに見返りも求めずに一緒におってくれる。

嬉しい、もあるけど、なんや、悔しい。

「お疲れさん、光。」

「あ、謙也さん、お疲れ様です。」

部室を開けて、光はちょうど学ランのチャックをしめとるところやった。

光はテニスバックを肩にかけると、部室の出口へ足を進めた。

「ちょお、ひ、光!」

「…?」

きだるそうに振り返ると、不思議そうに首を傾けた。

「あ、あー、昨日、い、一緒に帰ったやん?」

「…はあ。」

「せやから、えと、い、いや、」

「ん?」

「あー、何でもない!!ほんじゃな!!また明日!!」

「……」

「…光?どしたん?」

「……一緒に帰りませんか?」

「…えっ?」

まるで、素っ頓狂な声が出た。
突然の誘いに、俺はびっくりすることしか出来ない。

え?なに?光が、俺を?誘った?!



「……あかんでしたか?」

切なそうな…とは言えない仏頂面の顔でまた首を傾ける。

「ええええええ、ちゃうちゃうちゃう!!!!!帰ろ!な!一緒に!!」

「…はあ。」

「め、めっちゃ急いで着替えるから!まっとって!」

俺は驚きを隠さずに、グチャグチャになったシャツに袖を通した。












ーーーーーーーーー

「今日はどしたん?誘ってくれるなんて嬉しいなぁ。」

「え、そっすか」

「うん、おおきに」

「…いえ。」

そしてまた、沈黙に気を抜く。
ええなぁ、この感じ。

無造作にぶら下がった手に目線ををやる。

(キモイって、思われるやろか。)


不安が押し寄せ、俺は手を引っ込める。

「な、なあ光。」

「なんですか?」

俺の1歩先を歩く光は、なぜか普段曲がるところでは曲らず、まるで、俺んちに向かっとった。

「ぇ、やってこっち俺んちやで?ええの?」

「…だめですか?」

「え、ええけど。」

「すいません、いきなり。話したいこと、あります。」

「ふ、ふーん…」

もしかしたら、そんな不安がこみ上げた。

それはもちろん、別れ話じゃないかとか、文句や、なんか悪い知らせ。

嫌やなぁ、平和な話がええなぁ。ダブルスの話とかなぁ。あー怖い。



「んで、話ってなんや?」

悩んでも無駄やった。あっという間に家で、俺の不安は募り始めた。

「いや、まあ、ちょっとくだらんことですけど。」

「お、おう」

光からの宣言に心底安心したおれは、汗ばんだ手を開いた。
相変わらず仏頂面をたもっている光に対し、俺は額に汗さえかいている。

「あんた最近、俺に気使ってません?」

・・・・・・

えっ・・・・


「えええええええええええ?!?!?!?!」

「ちょっ、うるさいっすわ」

うるさい、なんて文句が生まれるのも当然、俺が叫ぶくらい驚いているからだ。

「な、なんで驚く必要があるんすか…?」

「ええ?え?なんでやろ……きづかれとったんかって、ビックリして……あのー、俺、わかりやすかった?」

こんな質問、今更意味ないけど、見事さとられたことに、そりゃあビックリしとる。
この子ちゃんと人んことみとるんやな…

「まあ、態度で。」

「そ、そーなん」

「前とは、変わったんですわ。態度も、全部。」

「え?」

「謙也さん、」

光は俺の前で丁寧に正座し、手を取った。
仏頂面に、何か表情があるんかは、俯いとったからわからんけど、多分、辛そうな。

「俺が、謙也さんのために出来ることは何もないんです。」

「……………え?」



(俺が光に出来ることって、なんやろ。)


自分自身の悩みが、光の言葉にデジャヴした。




顔を上げた光の顔は、仏頂面。

それと、

不安に埋もれ、
真っ青だった。



「……だからあんたに、気なんて使わせてたら…おれ…」

「な、なにいうてん。俺の方が、何にも出来てへんやんか。」

そう本心を告げると、光は強く首を振った。
それと同時に、鼻をすすった音も聞こえた。

泣いて、いる。

「そんなことない。気やって、使うてくれてるやんか。」

「それは、」

「それに!」

意見を遮った光の声に、胸がはねた。

「あんたは、そばに居ってくれるだけで、俺は幸せやから。」

ああ、幸せ。

光の涙が、カーペットの染みて。
俺の手に落ちて、流れてく。

「ひかる、ごめん。」

「え、」

「光は、なんもせんでええよ。」

そう言って、引き寄せる。柔らかい髪を優しくなでて、背をさする。

「俺も、一緒の気持ちやから。」

「な、なん」

「そばにいてくれる以外、なんもせんでいいよ。」

「ふ、ふぇ、」

「おおきに、」


胸で必死に声を殺す恋人を失わないようにと、俺は額にくちづけた。






(お互い、あかんなぁ)

目を閉じて、また考えた。

僕が君に出来ること。

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