短編


□ひばり達
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「タバコ吸ってるとおっさんなってから歯のヤニ汚れやばいんだって。」
今日も今日とて癒しのもくもくタイム、と言うよりはみ出し者の可愛こちゃんと大手を振って学校でベタベタできるタイム。


「俺そういうの強いらしい。」
「どゆこと。」
「子供の頃、歯科検診で言われたんだ。あー君ムシ歯なんないタイプだねって。」
「何それ口の中に歯磨きマンいんの。イーしてみ。」
「いー。」
「あ、おう、成る程。」
小さな頃の総悟みたいだ。あれに感じた何かみたいだ。


「な。けっこう綺麗だろ。」
「 うん、なんだ、その。」
「なんだ、ってなんだよ。」
「いい子だなあ高杉。」
利口な犬を褒めるように、顔周りや首元を強く撫で回したい。怒るだろうか。
目を細めて大人しくなるような、そんな「上手な人の撫で方」も無いものか。後で調べてみよう。その気にさせるフェザータッチ攻略、とか何とか。


「ひ、ひひはふぁ。」
親指でなぞる唇、ほんの少しかさついている。
「くひひる、かふぁく。」
下唇に親指を掛けて軽くめくらせたら、高杉の表情は憮然となった。
「ぅおい。」
「わり。」
「ん。唇ってか歯茎が、ククッ、歯も、乾いた。」
もごもごと舌を動かし、口内を湿らせている様子。
つられて俺も自分の唇を舐める。


「ええと、ヤニ汚れに、って歯磨き粉を買ったんだ。お前新し物好きだろ。一緒に面白がるかとな、思ったんだ。」
「味、美味いの。」
「ちょっと薬っぽい。」
「お前ちょっとイーしてみ。」
「いー。」
「イーはキス出来ねえな。」
「 そ、そだな。じゃあ鼻。」
うわ、と言う顔。逃さん。


「土方、鼻つめたい。」
近すぎて、その震える長い睫毛が滲んでしまって勿体無い。ふ、はは。
「お前、鼻チュウ好きって言ってただろ。」
「変に盛んなよ。」
「いいや、この間やった時に言ってたぞ、これ好きって。」
「んな事言ったかね。」
真面目くさった顔。意外と素直な奴だから。
「歯磨き粉、気になるだろ?」
「なる。」
「歯磨きマンがいても気になるだろ。」
「虫歯もヤニも、大丈夫なんだけどな。気になるな。」
「じゃあ金曜、遊びに来るよな。」
「ん。もう教室戻ろうぜ。さぶい。」
そんなんかよ。勿体ぶらなくても二つ返事だぜ。
「おう。火、よし、ポケ灰忘れ、なし、灰の消し後カムフラ、よし。」
「毎度律儀だな。土方、まだ忘れもんあるぜ。」
「何だっけ。」


言いかけたらキス。

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