短編


□猫の気分だ
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その指自体は大好きだ。


清潔なかたちをしていて、楕円を描く爪が綺麗だ。
陽の下で見ると時折むしゃぶりつきたくなる。
汚したらいけない、と理性が勝つのが常だが。


今、その指にねちねちと探られている。
悪く無いのだが、苛つく。焦れて仕方ないのだ。
どんな顔をして受けていれば良いのか戸惑ってしまう。
早く、と強請るのも屈するようで胸糞悪いと言うか。


「良くないか?」
それは無い。
ただ、自分の着物は胸元もぴったり合わせたままされても、面白くない。
「…そこを見つめていても案外つまらないだろう。こっちだ、お前が大好きな、この顔を見ろ。」
自分の股間に向けていた顔を上げると目が合った。満足気に笑われる。
美しい。そう思う自分自身に、何より腹が立つ。


後ろについた手を突っ張って、顔を寄せ唇を強請った。
「目は閉じるな。」
言われて初めて意識する。
いちいち煩い男だ。
ぴと、と合わせてから渋々目を合わせると、じっとりと覗き込まれていて思わず舌打ちが出た。
指の動きは変わらない。
急にぞくり、感じるものが強くなった。


「自分でして良いんだぞ。」
それも自尊心に傷が付く。
俺は自分の為に躊躇っていて、それがつまらないとも知っている。
本当は、自然に楽しみたいのに。


「とっくに慣れているのは知っておる。あとは好きに咲け。」
それで良い、と桂は笑っていた。
途端に前の熱が上がるのが分かった。
お見通しか。
どうしたい、か。
どうして欲しいだろうか。ずっと指だけは焦ったいが、それも楽しみ方と言われればそうだ。
ちりちりと高められるのも、なかなか。


吐息が漏れて前がとろり。
だが実際。
「ヅラは良いのかよ。」
「実を言うと辛い。」
苦笑。何だ、そうだよな。


俺は今、大好きな美しい指に育てられている。

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