長い夢

□第十二章 第四分隊副長
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次の日の朝、
ハンジは一人で食堂に来ていた。

いつもは部屋のドアをノックしたりノックされたりして朝はよくイヴと食堂に来ていたのだが、昨日の様子からしてハンジはイヴの部屋にはリヴァイがいると察したのだ。

まぁこれが初めてではないのだけれど。


「あ、モブリット! 今日からよろしくね!」


ハンジは朝食の乗ったお盆を持って席を探していると、一人で朝食を取っているモブリットを見かけて笑顔で声をかけた。


「あ、え、はい?」


モブリットは何の事かわからない様子で目を丸くして目の前に立つハンジを見上げた。

ハンジは首を傾げた。
昨日の夜、リヴァイにはっきり聞かされたはずなのに。
彼のこの反応は全く聞かされていない感じだ。


「あれ? 聞いてない?」


ハンジはモブリットの前の空いている席に盆を置き、椅子に腰掛けながら聞いた。


「聞いて......ないです、はい」


モブリットは少し考えて答えた。


「あれ? 今日からって言ってたと思うんだけどな......私の早とちりかな」


ハンジは少し目を泳がせて言うなり、コップに入った水を口に含んだ。

モブリットはそんなハンジを眺めて眉を歪めた。


「何の話ですか?」


「あなたが第四分隊副長になるって話だよ」


「ええ?!」


モブリットの質問に、ハンジが素直に答えると、モブリットは声を大きくして目を丸くした。

......これは困った。
何だか自分だけ緊張していたようで恥ずかしい。
ハンジはそう思ってリヴァイを少し恨んだ。


「あ、リヴァイ! まだ言ってなかったの?」


そこに丁度小柄な黒髪が一人で朝食を取りに来ている後ろ姿が見えたハンジは、確実にリヴァイだと確信して大きな声でその後ろ姿に叫んだ。

あまりにも大きな声で、周りの注目を浴びてしまったリヴァイは振り返るなりハンジを睨んだ。

......うるさいメガネの前の席にいるのはモブリットか。
ああ、そういえばモブリットにはまだ伝えていなかった。
睨みながらもすぐに状況を理解したリヴァイは、小さく返事を返した。


「......ああ」


距離もあったし、あまりに小さくて聞こえなかったが、ハンジはリヴァイの口の動きから“そうだ”と言ったのを読み取った。
なら早く伝えてくれ。
そう思いながら、ハンジは後ろを振り向いてリヴァイを眺めているモブリットに視線を移した。
自分の副官になると聞いて、彼はどう思うのだろう。


「兵長?」


モブリットは盆を持って歩いてきたリヴァイが近くにきたのを見計らって小さく声をかけた。


「そういうことだ、頼んだ」


リヴァイはモブリットを見て一言そう言うと、空いている離れた席に向かってスタスタと歩いて行ってしまった。


「え、あ......はい」


モブリットはなんとも素っ気ないリヴァイの言葉と態度に、呆気に取られながらも小さく呟いた。

一応エルヴィン団長に仕えていたとはいえ、一兵士だった自分にとって副長とは昇進だ。
そうだ、個室が与えられるのでは?
しかしハンジ分隊長の副官とは何故だろう?
前回怪我を負ったからか?
モブリットの脳裏に様々な思いが巡らされた。

そんな思いが巡らされているモブリットを、目の前にいるハンジは眺め続けた。

彼の視線は呆然と空になったお盆に向いているのできっとハンジの視線には気付いていない。


「本当素っ気ないよね、リヴァイは。......まぁ、そうゆうことだからよろしくね」


ハンジは少し居心地が悪くなり、なるべく笑顔で声をかけた。

モブリットはやっとハンジを見た。


「あ、はい! お願いします!」


リヴァイはその声を後ろで聞いて、ついた席で朝食を食べ始めた。

上官ぶってこうゆうことを伝えるのは苦手だ。
ハンジが先に伝えていたのなら利用する他ない。
まぁどうせ後で紙に貼り出されるだろう。
リヴァイはそう思いながら食堂のドアからイヴが入ってくるのを一瞬横目で眺めた。

一瞬睨まれた気がしたが、気にしない。

行為をした翌朝イヴは寝起きが悪い。
最初は起こしていたが、そのままにしとくのも悪くないと最近思いだして今朝もそのままにしてきた。

なんせ寝顔が不細工なようで可愛い。

......そんな事をリヴァイが思っているとは知らず、ハンジとモブリットが向かい合わせに座って挨拶を済ませているのも知らず、イヴは朝食を取りに向かった。


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