長い夢

□第十一章 思い出
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何枚かの茶葉を墓に置き、イヴがしゃがんで手を合わせていると、突然兵士が叫ぶ声が響いた。


「巨人発見! 南より6m級と7m級の2体がこっちに向かってきています! 」


「!」


村にバラバラに散っていた兵士達はすぐに体勢を整え出した。
イヴは立ち上がって顔をしかめた。まだ荒れていないここを荒らされるのだけは避けたい。


「リヴァイ!」


「......あとでな」


後ろにいたリヴァイを振り返ったイヴの顔は必死に訴えていただろうか、リヴァイはわかったようにイヴの頭を小突いて小屋に向かって踵を返した。
イヴは小突かれた頭を押さえて素早く歩くリヴァイの後ろ姿を眺めた。
それはほんの数秒だっただろうか、小さく微笑んで見納めると、イヴは畑で戸惑っている部下のもとに走った。


「作業中断! 収穫した袋を持って馬の元へ戻るよ! 奇行種なら何してくるかわからない!」


「はい!」


イヴは大声で部下に向かって指示を出すと、返事と共に畑から出てきた部下を見て馬をとめている広場へと走った。


「茶葉任せちゃってごめんね。結構摘めたみたいだね」


走りながらイヴは後ろにいたサムを振り返った。手元の袋には、ほぼ満タンに茶葉が入っていた。


「いえ! うちの実家は農家だったので集中しちゃいました!」


答えるサムはホランに似ているようで違ったらしい。どことなく真面目で、そう言われれば農家の雰囲気も出ているかもしれない。サレとはちょっと違うだろうか。


「そうだったんだ」


イヴは微笑んだ。
何故ホランやサレに部下を重ねてしまうのか、それだけ信頼した仲間だったし、この村のことをずっと想っていたからかもしれない。
イヴは走りながら目が覚めた気がした。グラン分隊長がしてくれたように、自分も部下を一人一人しっかり見ていかなければならない。
ずっと必死だったせいか、サムが農家だったなんて知らなかった。
帰ったら親睦会でもしようか、イヴは1人そう思った。


広場に着いて馬と合流すると、エルヴィン団長の声が響いた。


「南より向かってきている巨人は奇行種の可能性がある! 現在ハンジ分隊長の班が向かっているが、こちらに来る可能性も他の巨人が出現する可能性もある! その危険を考慮してこれより南西のシガンシナ区に向かい、穴を確認しに行く! 準備はいいか?!」


「はっ!!」


集まっていた兵士達は一斉に心臓を捧げる敬礼をした。

その中でもイヴは、心臓に当てた握った右手から鼓動が速くなるのを感じた。
ハンジが、親友が、今向かっている......確かにハンジには実力がある。今まで何度も見てきた。
でもたまに危なっかしいのだ。実験と言って目を潰したあと何秒見えないのか確認したり、指を削ぎ落とした後何秒で生えてくるか観察したりしてすぐに討伐しないことがあった。

ちゃんと時と場合をわきまえて危ないときはすぐ討伐していたが、グラン分隊長もホランもサレもそれを理解してフォローしていたし、イヴも渋々その“実験”に付き合っていたもんだ。
だが今回はハンジを理解してくれる者がいるだろうか。もしも1人で暴走したら誰か止めてくれるだろうか。......思い付くのはナナバしかいない。

イヴはとにかくハンジが暴走しないことを願って馬に跨がった。


......村を出て広野にでると、陣形展開の信煙弾が上がった。
ハンジ班が戻ってくるなら左翼側からだろう。イヴは周りを気にしつつ特に左翼側を気にしていた。


シガンシナ区に近付くと、巨人が多々出現しだした。右翼側からの巨人発見を知らせる信煙弾が多く、このまま戦闘を避けていてはシガンシナ区に近付けない。

すると前の方で誰かが陣形から抜け出し右翼側に馬を走らせだした。
イヴの位置からは小さくて見えにくかったが、イヴにとって見覚えのある馬に、なびく黒髪はリヴァイだ。

リヴァイが1人で右翼側を支援しに行った。すなわち戦いは避けない。
イヴにとって自分の命よりも大事だと思う2人が戦闘の場に行った......それなのに自分だけは安全な位置に身を置いている。イヴは居たたまれない気持ちに胸が締め付けられるのを感じた。


「イヴ分隊長!」


「!」


突然後ろから名前を叫ばれて、イヴは咄嗟に振り返った。


「ハンジが......っ!」


叫んだのは後ろから追い付いてきたナナバだった。

ナナバは自分の前にハンジを抱えて馬を走らせていた。後ろには1人の班員がハンジの馬を引き連れている。
ナナバがイヴの隣に馬をつけると、イヴは目を丸くした。


「ハンジ!」


ハンジが苦しそうな顔で右腕を押さえていたのだ。


「部下を庇って右腕を負傷した! 応急処置はしたが、まだ血が止まってないんだ!」


叫ぶナナバは必死だった。
確かにハンジの右腕はしっかり止血していて、固定されているが血が滲み出ている。それを見たイヴは取り乱しそうになったのを堪えて深呼吸した。


「誰か1人は団長に口頭で報告に向かって! 今は馬を止められない......ハンジ、もう少し堪えて」


言い切って最後に声を小さくしたイヴはハンジを見た。
その声はハンジに届いただろうか、ハンジは小さく微笑んでいるように見えた。


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