長い夢

□第十章 分隊長
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その後部下となったメンバーを連れて講堂に来たイヴは、黒板に絵を書きながら人体の解剖・生理の講義を開始していた。

そんな講義の途中、扉がゆっくり開いてエルヴィンとリヴァイが入ってきていたのだが、黒板に字を書きながら何やら説明していたイヴは、二人がひっそりと椅子に腰掛けていたことに気付かなかった。


「彼女は教官も向いているかもしれないな」


5分程しっかり聞いていただろうか、テキパキと講義を進めるイヴの後ろ姿を見納めて静かに講堂を出たエルヴィンは、後ろにリヴァイが着いてきているのを確認すると静かに口を開いた。


「......そうかもな」


リヴァイは顔をしかめながら答えた。
正直もう少しイヴの姿を見ておきたかったのだろう、リヴァイは各々解散してからというもの、ずっとエルヴィンに着いて回っているだけだった。


「彼女の現場での動きは見事だった。指導力もありそうだ。処置を受けたグランが惹かれるのも無理はない......ああ、今はお前の恋人だったか」


「......」


エルヴィンは前を向いて歩きながら淡々と話した。

リヴァイは答えなかった。

コイツは一体何が言いたいのか、もしかしておちょくっているのか、リヴァイは何だか苛立ちを感じた。

『全ての班がどんな感じか掌握しておく必要がある』そう言ったエルヴィンはたった数分で何を感じ取っているのだろう。
リヴァイにはつまらないだけだった。


「まぁ、干渉する気はない。恋愛も結婚も自由だからな......ただ任務に支障はきたさないようにしてくれ」


「......」


またもリヴァイは答えなかった。
イヴは自分の彼女だと公表すれば、イヴに惚れる男は現れないだろうか。
リヴァイはそんなことも考えていたのだが、それを読み取ったのだろうか、何となくエルヴィンに“公表するな”と言われた気がした。


「......部下はどうする?」


それからかなり歩いただろうか、気付けば兵舎の外に出ようとしていた。

何も答えなかった自分に諦めたのか、何だか居心地が悪くなったリヴァイはため息をつきながら無言で歩くエルヴィンの背中に小さく声をかけた。


「モブリットに訓練を任せてある、お前は今から俺と共に上に挨拶に向かってもらう」


「チッ、面倒臭ぇな......」


エルヴィンはまた淡々と話した。

リヴァイは大きく舌打ちをした。

“兵士長”とは今までになかった役柄だし、何をすればいいかなんてリヴァイは何も聞かされていなかった。
ただエルヴィンの指示のもと動く、ただそれだけで、今回リヴァイには直属の部下はつかなかった。

とりあえずエルヴィンの分隊だったモブリットを始め、新たに彼の指揮下に配属された3名の部下をリヴァイが指導するように会議の後言われていたのだが、エルヴィンはリヴァイを連れ回すばかりで部下のもとには話をするどころか挨拶もしていなかったのだ。


今までの立場がどれ程楽だっただろう
訓練兵団の過程を経ず、ゴロツキだった自分は受け入れてもらえるのだろうか......。
リヴァイは先程のイヴの後ろ姿が遠くに見えたのと共に、今後への不安を感じていた。




「_____つまり巨人の頭には脳ミソなんてのはないと思うんだよ!」


外に出て広場のベンチが見えると、リヴァイにとって耳が痛くなるほど聞き覚えのある声が聞こえた。

エルヴィンすらも、見なくても誰かすぐにわかった。

......ハンジだ。

目が合うと面倒臭いのでリヴァイは横目で声のほうを見た。

ハンジは何やら部下になった兵士達に演説しているようだ。


「......彼女は確かに探求心が強そうだ。ああゆう人材は調査兵団にとって必要なのだろうな。私は好きだが」


エルヴィンは何だか納得するようにその様子を微笑みながら眺めていた。


「ただの変態だろう」


リヴァイはエルヴィンを見て苦笑いした。

生殖器官がなく、人類のように繁殖できない巨人は倒し続ければ絶滅させられるはずなんだとハンジは語った。

なら絶滅させるだけだとリヴァイは思った。

だがハンジは研究しなければわからないことがまだ多くあると言い、共存することもできるかもしれないだのリヴァイは聞かされてきたのだ。

エルヴィンももしかしてそんな考えを持っているのだろうか。

そんなことを考えながら、エルヴィンの後ろを歩いていたリヴァイはまた大きくため息をついた。


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