長い夢

□第四章 任務遂行
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一方......


1時間程馬を走らせただろうか、森についた4人は馬をゆっくり走らせて大きすぎる木を見上げて唖然としていた。
見渡す限り、抱き付いても手が回らないであろう木の幹にこれは苦戦しそうだと感じた。


「でかすぎねぇか、ここの木」


ホランは隣で馬に揺られるリヴァイを見て話しかけた。


「あぁ、無駄にデカイな......まともな木はなさそうだが」


リヴァイは一瞬ホランを見て、高々と連なる木々を見上げながら答えた。

ハンジは荷車に揺られる荷物を支えながら頭を掻いた。


「もしかして何、私達に対する嫌がらせ? ......これ頑張って伐れたとしてどうやって運ぶんだよ」


「とりあえず伐れそうな木探して森一周しようか。俺とリヴァイは周りを一周するから、サレとハンジは中を見てきてくれ。この枝分かれした変な木が目印な」


苛ついた様子のハンジを振り返ってホランは言った。
一つだけ二つに分かれた幹を持っていて目立つ木は森に入ってすぐのところにあり、ちょうどグラン分隊長とイヴが後から合流しやすい位置にあった。


「了解」


サレはその木を一目見て返事を返し、それを聞いてそれぞれ馬を走らせた。


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約30分後、

目印にした木にサレとハンジは戻った。
そこにはすでにホランとリヴァイが戻っていて、馬から降りて木と馬をロープでとめていた。


「おーい、何か収穫はあった?」


ハンジは二人を見て荷車の中から声をかけた。
それにホランは首を振った。


「こっちは特に......全部同じような大きさだったぜ。そっちはどうだ?」


ホランの言葉にサレとハンジは、そう言うと思っていたけど少しでも期待しただけにガッカリしため息をついた。


「こっちもだよ......」


ハンジは苦笑いして答えると、馬を止めたサレを見て荷車から降りた。
サレも続いて馬を降り、ホランとリヴァイの馬を繋いでいる木にロープをくくりつけた。


「どうする? とりあえずその辺の木に斧ぶつけてみるか?」


サレは馬を繋ぎ終えると、腕を組んで上を見上げているホランに話しかけた。


「そうだな。何もせずに大工来るの待ってても暇だし、連れてくるかもわからねぇしな」


ホランは顔を下ろしてサレを見た。
するとその後ろで既に斧を構えているハンジが目に入って目を丸くした。


「よっしゃ、いくよー!」


ハンジは目の前の木に向かって両手に持った斧を右腰に構えて走っていった。
何とも男らしいその姿にホランは苦笑いして見守った。


「っ......いっっってぇぇえ!! これっ......すっげえ固いよ!!」


ハンジは木に刺さった斧を残して後ろにひっくり返った。
そんな突然の出来事にサレとリヴァイは目を丸くして口を開けた。
ホランは逆に口を閉じて手を口元に当ててこみ上げてくる笑いを堪えていたが、堪えきれずに爆笑してしまった。


「はははははははっ!! お前っ、ハンジっ、はははっ! 何してんだよっ、新喜劇か何かか?!」


ホランはひたすら笑っている。
それにサレも釣られて笑った。
リヴァイは変なものを眺めるような視線をハンジに向けていた。
ハンジはお尻を擦りながら恥ずかしそうに起き上がった。


「ははははは......そんなに笑うことないだろうっ! 試しにやってみただけだよ、次ホランやってみてよ」


ホランは未だに腹を抱えてひーひー言いながら笑っている。
ハンジは普段苛ついたりしない分、何だか苛立ちを覚えてホランを睨んだ。


「いやっ、ごめんごめん......でもさ、斧刺さったままだぜ? 抜けるのかよそれ」


ホランは顔が熱くなったのか、ふーふー言いながら両手で頬をはたいて言った。

ハンジは木を振り返ると、斧の刃先が木に垂直に半分以上刺さっていた。
だが木を倒さなければならないことを考えると、それはまだ10分の1にも満たない深さだった。

ハンジはその斧の柄を握って軽く引いてみた。
......全く動かない。
一度休憩し、今度は足で木の幹を踏んで力を入れ声を発して力一杯引いてみてた。
......びくともしなかった。


「はぁ、はぁ......駄目だこれ、取れる気しないよ」


ハンジは力んだせいか、息を切らしてその場でしゃがみこんだ。


「おいおい、嘘だろ。貸してみろ」


ホランはそんなハンジに苦笑いしながら斧の刺さった木に向かった。
柄を持って軽く引いてみると確かに動かない。
徐々に力を入れて、最終的には最大限の力を振り絞って木の幹に足を置いて引いた。
すると数ミリは動いただろうか、だがまだまだ抜けそうにはなかった。


「はぁ、はぁ......ハンジお前本当に女か」


ホランはすぐ斜め後ろにいるハンジを見て言った。


「ははは、失礼だなぁ! 訓練兵の時イヴのほうが力強かったんだよ。今もそうかもね......てことは今の台詞、イヴに言ったも同然だよ」


ハンジの返事にホランは唾を飲んで目を丸くした。
どう見てもハンジの方が男らしく強そうなのに、小柄なイヴのどこにそんな力があるというのだろう。
それはホランだけでなく、後ろで密かに驚いているサレとリヴァイも思った。


「ははははっ、そんなにあからさまに 驚かないでよ......ん? グラン分隊長かな」


ハンジは何も言わなくなったホランに勝ち誇ったような気になった。
一瞬静かになると馬を走らせてこっちに向かってきている足音が聞こえた。
その音に意識を集中すると、もう一つ聞こえてもいいはずの馬の足音が聞こえない。
まさかイヴと二人乗りで来たのかとハンジは一瞬ありえないことを想像した。

そんな想像をしたのも束の間、足音はすぐ間近になった。


「おっ! お前ら仲良くやってるか?」


聞き覚えのある大きい声に全員一斉に振り向くと、馬を操作するグラン分隊長が視界に入った。

だが後ろに着いてきているはずのイヴの姿も、大工の姿もどこにも見当たらない。

それに一番に口を開いたのはサレだった。


「イヴはどうしたんです?」


グラン分隊長は4頭の馬がとめてある変わった形の木の前で馬を止めると、素早く降りて答えた。


「実は村唯一の大工が病で倒れてるらしくてな、しかも村には医者がいないらしい。イヴちゃんは、自分の知識を活かして診察するために残ったんだ」


「!」


4人は驚いて立ちすくんだ。
大工が病で動けないとなると、なんとか木を伐り倒せたとしてもその後の加工がどうすればいいかわからない。
イヴの並外れた医術は知っているが、診たところで治るかどうかもわからない。
それにイヴが心配だ。


グラン分隊長は驚きを隠せない4人を余所に、自分の馬をロープで木に繋いだ。


「で、そっちはどうだ? なんかささってるけど」


グラン分隊長は言葉を続けて斧を指差した。
それにホランははっとして答えた。


「森を一周見回しましたがどこもでかすぎる木しかなく、試しにハンジが斧を刺したんですが......この通りになってしまったんです」


ホランは言いながらハンジを一瞬見た。ハンジはどこか目を泳がせていた。


「そうか......抜けなくなったってのか」


グラン分隊長は目を泳がせるハンジを見て微笑みながら言った。

ハンジは申し訳なさそうに頭を掻いた。


「ははは、すみません......斧3本しかないのに」


グラン分隊長はハンジに歩み寄り、小さく頭を小突いた。


「ははは、これも訓練の一種だな! よし、俺が抜いてやろう」


分隊長はそう言ってジャケットを脱ぎ、ハンジに託した。
ハンジはそれを受けとると、タンクトップの袖から見えるガッチリ筋肉のついた分隊長の腕が物凄く逞しく見えた。

これならいける、そう思った。


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