長い夢

□第三章 心の葛藤
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次の日の朝、一番に男部屋から出てきたのはサレだった。
時刻はまだ6時ぐらいだろうか。
外はまだ薄暗かった。
サレはまだ寝ている三人を起こさないように布団を畳み、ドアの前を陣取ってよかったと思いながらそっとドアを開けて部屋を出た。

広間に入ると誰もいなかった。
そりゃそうか、昨日は9時頃には寝たがみんな疲れきっていたしなと思い頭を掻いた。
......実はイヴが起きていないかと少し期待した。
もし起きていたら昨日分担を決めずに寝たので、あわよくば二人で食事の担当ができるんじゃないかと思った。
まぁそう上手くいくわけがないと諦めて、サレはとりあえず水を飲むため井戸水を汲みに外に出ることにした。


家の裏手にある井戸に近づくと水を使っているような音が聞こえた。
まさかと思って期待に胸が高鳴った。
家の角を曲がると見えた井戸に先客がいた。
顔を洗っていたのか、ちょうど自分に背中を向けて顔を拭いている。
自分よりも小さくて華奢なその後ろ姿はまさしく期待していたイヴだった。


「おはよう」


サレは深呼吸してその後ろ姿に声をかけた。
イヴは少し驚いたように乱れた前髪を手ぐしで素早く整えて振り向いた。


「サレ! おはよう」


髪も先に濡らしたのか、まだ乾ききっていない髪で振り向いたイヴに色気を感じてサレは目をそらした。


「早いな」


なんとか平然を装ってサレは言葉を続けた。


「目、覚めちゃって。サレも早いね......水飲む?」


イヴは言いながらロープに繋がった桶を下ろして水を汲みにかかった。サレはそれを見て自然に足が動いた。


「ありがとう。俺がやるよ」


イヴの隣に来たサレは、ロープを持つイヴの手の上からロープを持ってそれをひいた。
イヴはその動作に自然に手をロープから離した。


「うん......ふふっ、サレの髪すごい寝癖っ!」


「えっ?!」


ロープをサレに引き継いで一歩後ろに下がったイヴはサレの頭を見て小さく笑った。
前から見ると整っていたサレの少し天然パーマの髪は、後ろから見ると逆立っていて明らかに寝癖を主張していた。

サレは笑われたことに恥ずかしくも嬉しくなり、急いでロープを引き上げて後ろ髪を触った。


「そう、そこそこ!」


「ここ?」


サレはその指示に従って汲んだ水で手を濡らして髪をくしゃくしゃとといた。


「うん、戻った」


「......ありがとう」


サレは顔が熱くなるのを感じながら顔だけ少しイヴを振り返り礼を言った後、すぐに汲んだ井戸水に向き直って水を口に含んでうがいをした。
そして今度は水を飲んでから顔を洗った。

その豪快な様子を眺めて、顔を洗い終わったサレにイヴは声をかけた。


「食事の担当決めてなかったよね。まだ誰も起きないだろうし、今日一緒にしない?」


「ああ、そうだな」


サレは濡れたままの顔を両手で拭ってイヴを振り返った。
まさかこんなに思い通りになるとは信じがたい現実だ。
治まっていた心臓が急激に音をたてて高鳴りだした気がした。


「私そんなに料理できないけど、サレは何か作れる? あ、よかったらこれ使って」


「あ、ああ......ありがとう」


イヴは自分が使って肩にかけていたタオルをサレに差し出した。
サレは照れ臭そうにそれを受け取って顔を拭いた。

もしもこれをグラン分隊長に見られていたら殴り飛ばされそうだ。

そう思いながら、サレは先程のイヴの質問を思い出して顔を拭いたタオルを返しながら答えた。


「......料理はできるほうだと思う、多分」


「本当?! サレって何でもできるんだね」


イヴはタオルを受け取りながら目を輝かせた。


「じゃあ、私スープぐらいなら作れるから今から用意しちゃおう? 水汲まなきゃだね。ボトル持ってくる」


そう言うなりイヴは早足で入り口のほうに行ってしまった。
残されたサレはイヴの背中を見送って高鳴ったままの胸を押さえた。

周りを見渡すと先程より少し明るくなり始めていた。
そういえば任務でここにきたんだったと思い出すと、未だに熱い頬を叩いて気を引き締めた。


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