長い夢

□第三章 心の葛藤
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「うおっ! すっげー綺麗だな、おい!」


奥の部屋に入っていったイヴとハンジを見送って、男4人はグラン分隊長を筆頭にその隣のリヴァイが掃除した部屋に入った。

分隊長は部屋のドアを開けて部屋を照らすなり大声をあげた。

それに続いてホランとサレも部屋に入り、持っていた明かりで部屋を照らすと暗いながらも床には埃一つなく綺麗に片付けられていることがわかった。


「これお前が一人で掃除したのか......すげーな」


ホランは部屋を一周して感心しながら、最後に部屋に入って部屋の端に荷物を下ろしているリヴァイを見た。


「これくらい誰でもできる」


リヴァイは面倒くさそうに答えながら荷ほどきしだした。


「器用なんだな、リヴァイは」


グラン分隊長は笑顔で答えてリヴァイの反対側の部屋の端で、サレはドアの前から少し離れた端に、ホランも窓際のグラン分隊長と反対側の端にそれぞれ荷物を下ろした。

6畳程の部屋の四隅にランプが照らされ、それぞれが荷ほどきを開始すると不自然な程に静かになった。


「あはははは!」


「!」


荷ほどきの音だけが響き渡っていた部屋で、リヴァイとグラン分隊長がいる壁の向こう側からハンジの笑い声が聞こえてきた。


「相変わらずうるせぇな」


グラン分隊長はそう言いながらも何を話しているのか気になって荷ほどきする手を止めて隣の壁に耳を当てた。


「分隊長、変態ですよ」


耳を壁に当てているランプに照らされた分隊長の顔は不気味に微笑んでいて、少し離れた斜め前にいるサレは呆れて声をかけた。


「しーっ、聞こえねぇだろ」


ホランはそんな分隊長を尻目にすでに全身に巻かれたベルトを外し服を脱いでいた。

リヴァイも同じく服を脱いでシャツを被ると、ランプに照らされたホランの上半身が目に写って凝視してしまった
胸に大きな火傷の痕があった。

ホランは私服に手をかけると、リヴァイの視線が自分の胸あたりに向けられていることに気づいた。


「あぁ、これ......巨人にやられたわけじゃねぇぜ」


「!」


リヴァイは突然声をかけられ、凝視してしまっていたことに焦りを感じて目をそらした。


「悪い......」


ホランは服の袖を通しながらリヴァイを見て言った。


「いや、このまま沈黙しとくのも辛いし昔話でもしようか。これ昔親に熱湯かけられたんだよ」


その話にリヴァイはそらした目をまたホランのほうに向けた。


「......」


サレは黙々と着替えて布団を敷きにかかっている。
リヴァイはそれを一瞬横目で見て止まっていた手を動かし始めた。
グラン分隊長は相変わらず壁に耳を当てたまま手は自分のベルトをはずしにかかっており、視線はホランのほうに向けていた。


「まぁ10歳ぐらいの時の話だけどな、 父親が借金抱えて逃げて母親は娼婦になっちまったよ」


ホランは笑いながら話し、布団を敷きにかかった。


「で、俺は一応一人で食っていくため兵士になったわけだ。まぁ調査兵になるつもりはなかったけどさ、こいつと仲良くなっちまったもんだから付いてきたんだ」


布団を敷くと狭くなった部屋で隣にきたサレの肩を叩いてホランは言った。
サレはそんなホランを横目で見て口角を少し上げて微笑んだ。


「リヴァイはどんなだった? ガキの頃」


ホランは敷いた布団の上に座り、布団を敷き終えて着替えた服を丁寧に畳んでいるリヴァイに訊ねた。
リヴァイは畳み終えるとホランに向き直って話し始めた。


「覚えてねぇな......母親は死んで俺も死にかけてた」


「へぇ、よく生きてたな」


ホランは目を丸くしてリヴァイの話を受け止めた。


「......」


リヴァイはそれ以上話さなかった。
というかどう話せばいいかわからなかった。
死にかけの自分を救ったのは殺人鬼で、そいつと暫く共に暮らしたなんてどう言えば理解してもらえるだろう。


「......分隊長、何か聞こえました?」


少し沈黙が続いたところでサレが気を利かせて声を発した。
それに救われたリヴァイは分隊長に目を向けた。
それに合わせてホランも分隊長に目を向けると、分隊長はやっと壁から耳を離して着替えにかかっている。


「いや、残念ながら何も......もう寝たのかもな」


残念そうにする分隊長に三人は同時に呆れてため息をついた。


「お前ら可愛い女子に目がいかねぇのか? ハンジは置いといてイヴちゃんが隣で着替えて、寝てるんだぜ? しかもこの壁のすぐ向こう側で」


「分隊長、変態ですね。とゆうかハンジも女として見てやってください」


上半身裸のまま壁を見つめて何やら興奮している分隊長にホランは冷たい視線を送った。


「おいおい、ホラン。お前ハンジが好きなのかよ? 何だお前、童貞か?」


「何でそうゆう話になるんですか。まぁハンジは眼鏡とって髪下ろして綺麗にすれば美人かもしれませんよ? とゆうか俺童貞じゃないですし」


やっと服を着だした分隊長はホランを睨むようにして言った。
ホランは怯むことなくはっきりと答えた。


「ほぅ、お前はどうだ? サレ」


「俺は......興味ありません」


サレは自分にもその質問がくると思って身構えていたが、答えが見つからず妥当な答えを言った。
だって自分は童貞ですなんて言ったら笑われそうだ。
それにイヴの話になると勝手に心臓が高鳴ってバレてしまいそうになる。


「なんだよつまらねぇなー。リヴァイは......ってもう寝てんのかよ」


分隊長は楽しい恋愛トークができないことにふて腐れて最後の頼みの綱であるリヴァイを見たが、リヴァイはすでに自分のランプを消して布団に入って背中を向けていた。


「くそー、逃げたなリヴァイ」


それを見てホランとサレも布団に入った。


「おやすみなさい、分隊長」


まだ布団を敷いていない分隊長は焦って布団を敷きだした。


「うぉい、待て待て」


分隊長の言葉もむなしく二人はランプの火を消した。明かりは分隊長のランプのみになり、部屋は一気に暗くなった。
急いで布団を敷き終えた分隊長は布団に入って一息ついた。


「ふぅ......まぁ3ヶ月あるからな、ゆっくり仲を深めていこうぜ......おやすみ」


分隊長は静かになった部屋で独り言のように呟いてランプを消した。


部屋は真っ暗になったが、リヴァイはまだ目を開けていた。
ホランは自分のことを話してくれたのに、自分は何も話せなかったことを悔やんでいた。
どう話せばよかったのか考えると、死んだファーランと語り合った時のことを思い出した。
彼は自分が切り裂きケニーに生き方を教わったと言うと、驚いてはいたが「だからそんなに強いのか」と言って信じてくれた。
ホランもまた、同じように信じてくれるだろうか。
そんなことを思っていると、静かな寝息と分隊長であろういびきが聞こえてきてリヴァイは目を閉じた。

すると何故か今日の出来事を思い出した。
蜘蛛にびびるイヴに、バケツの水を捨てたあとの伸びをした。イヴ、更に村についての考察を悲しそうに言ったイヴが脳裏に浮かんだ。
分隊長の言う通り、頭もとにあるこの1枚の壁の向こうにはイヴが寝ている。そう思うと脈が少し早くなったのを感じた。

これでは変態分隊長と同類だ。

リヴァイはまた目を開けて鼻で深呼吸し気持ちを切り替えた後、再び目を閉じた。

明日になればそんな感情忘れている。
そう思って眠りについた。


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