長い夢

□第六章 告白
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日が完全に暮れる前に本部の門が見えてくると、そこにはシャーディス団長が待ち構えていた。
更に団長の隣にはエルヴィン分隊長がいた。
その姿が見えた瞬間、一同は目を丸くした。


「グラン! 予定より早く終わったんだな。君達もよくやってくれた、慣れない仕事で大変だっただろう。感謝する」


顔がはっきり見える距離に近づくと、シャーディス団長が頭を下げて言った。
それに驚きながら一同が目の前までくると、グラン分隊長が馬から降りて敬礼し、それに続いて全員が馬から降りて敬礼した。

身体はしっかり覚えているものだ。
しっかり右手握り拳を左胸にあてて背筋をのばすと、何だか急に現実に引き戻された気分になった。


「中々楽しかったですよ、これで少しは節約できたでしょうか。ははは」


グラン分隊長は姿勢を崩しながら笑って言うと、シャーディス団長の隣でエルヴィンが微笑んだ。
何だかその微笑みはリヴァイに向けられている気がする。
リヴァイはエルヴィンを見て適当に整えた姿勢を緩めた。


「少しどころではない、かなりの節約になった。それでグラン......お疲れのところ悪いんだが、さっそく会議に出てもらいたい。丁度今から始めるところだ......その髭、中々似合っているじゃないか」


シャーディス団長はそう言うと本舎に向けて踵を返した。
グラン分隊長は顎髭を触って一言「わかりました」と言うと、分隊長の隣にいたホランが言った。


「馬、戻しておきますよ」


「ああ、ありがとう」


グラン分隊長は微笑んで掴んでいた手綱をホランに渡し、後ろにいる部下を振り返った。


「お前ら本当にお疲れさん。早めに食事とってゆっくり休め、明日は休暇にする。明後日からはまた訓練に戻るぞ」


「「「はい!」」」


分隊長は返事を聞いて微笑んだ後、ゆっくりシャーディス団長とエルヴィン分隊長の背中を追いかけて行った。

その背中を見送って、一同は馬小屋へと足を進めた。


「分隊長も大変だな......休む暇もなく会議か。何か一気に現実に引き戻されたな」


ホランが二頭の馬を連れながら苦笑いして言った。
それにサレが「そうだな」と答えて苦笑いした。

どうやら皆同じことを思っていたようだ。

確かに作業は大変ではあったが、それでも楽しいことのほうが多かった。

それが団長自ら出迎え、更に頭を下げられるほどの偉業を成し遂げたというのか。

そういえば経費削減のためにやったことだったと思い出すと、何だか気が引き締められた気がした。


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二日後


朝食を食べ終え、グラン分隊長以外揃ったグラン班は訓練場で雑談しながら待機していた。
そこにグラン分隊長が走ってやってきた。


「おはよう! イヴちゃん、いい報告がある! あの村にシガンシナ区から月に2回医師が派遣されることになった! 報告書に書いてたんだな、さすがイヴちゃん!! ほとんど確認してなかったから気付かなかったよ」


「本当ですか?!」


グラン分隊長が目を輝かせながら言うと、イヴは目を見開いて喜んだ。

イヴは報告書の合間に、村の状態と食糧等の支援があって任務達成できたことを長々と書き、近くのシガンシナ区からの医師の派遣を提案していた。

まさかこんなにあっさり、しかもこんなにも早く通るとは思ってなかった。
ハンジはシャーディス団長ならきっと通してくれると言っていたけど、イヴはハンジ程シャーディス団長に対する敬意はなかった。

帰省時の団長といい、イヴは何だか団長が好きになった気がした。


「やったね、イヴ! やっぱりイヴの文章には力があるんだよ!」


ハンジはイヴの背中を叩いて笑った。

ホランはその後ろで「イヴすげぇな」と言いイヴの肩を軽く叩いた。
サレは「さすがイヴ」と言って微笑み、リヴァイは無言でイヴの背中を眺めた。

イヴは更に嬉しくなって、照れ臭そうに微笑んで後ろを振り返り、ホランとサレを交互に見た。


「ありがとう、これで少しでもあの村の助けになればいいな」


「......害虫駆除は何とか頑張ってもらいたいけどな」


ホランはイヴを見て苦笑いして言った。
村では何でも屋だと思われ、蜂の巣やゴキブリ退治をさせられたことを思い出すと、イヴはゾッとして顔を歪めた。
サレはそれに苦笑いしながら微笑み返し、リヴァイは無言でイヴの顔を見ると、その視線に気付いたようにイヴも視線を合わせてきたので二人は自然と目が合った。

その瞬間、リヴァイは脈が早くなるのを感じた。


つい2日前まで共に過ごした72日間、リヴァイはイヴに毎日のように惹かれていくのを感じていた。
日を重ねる度、思いはどんどん強くなった。
イヴを知る内に、嫌いになれるところを探してみたりしたけど、そんなところは1つも見つからなかった。
それにイヴが近くにいるだけで何だか楽しくなったし、常に誰かが周りにいる状況で、いつの間にか孤独を感じることはなくなっていた。
そして抑えが効かない感情は、誰にも話さなければ別にいいかと思って割りきっていた。


3秒ほど目が合っていただろうか、先にそらしたのはイヴだった。

イヴは何も言ってくれなかったリヴァイだけど、目が合った時のリヴァイの目付きが優しい目付きだったことに、リヴァイも皆と同じように思ってくれていると感じて小さく笑った。



それからは訓練に励んだ。
久しぶりにする巨人に見立てて作られた模型のうなじを削いで飛ぶ訓練で、リヴァイは全ての模型のうなじを完璧に削いで見せた。

巨大な木が立ち並ぶ森で、訓練に見立てて飛び回ってはいたが、模型のうなじを削ぐ姿を初めて見た一同は目を丸くした。


「もし仮に訓練受けてたとしても、ここまで完璧な奴は見たことねぇよ! 独学とか言ってたが、才能だな」


ホランは頭を掻きながら言った。
リヴァイと一緒に飛んでいたサレは驚きのあまり、木にぶつかりそうになってよたついた。
それをグラン分隊長が支えて、リヴァイが着地した地点に一同は集合した。


「次の壁外調査は10日後だ、前回の長距離索敵陣形は一旦取り止めにするそうだ。俺達はルーク班と共に木材を運び、南へ進軍する部隊から巨人の出現しにくい東へ逸れる。荷物が多いから足も遅くなるだろう......リヴァイ、お前と俺は一人で馬に乗り巨人出現次第討伐にかかるんだ。そして拠点を建てる地点に着き次第木材を下ろし、ルーク班とは解散、熟知したビルさんの設計図通りに俺達だけで組み立てを開始する。奇行種から拠点を守るため、森の外では俺達を囲うように他の班が待機してくれる。万が一巨人が現れた時に対処できるよう、見張りは2人つける。作業は4人で行わなければならない......厳しそうだが、これが完了次第撤退となる。サレ......大丈夫だ、お前はもっと自信を持て」


「......はい」


グラン分隊長は真剣に言うと、サレの頭を優しく掴んだ。
サレは補佐は上手いが、一人で巨人を討伐したことはほとんどない。
今回の任務だと、拠点を組み立てている際に巨人が出現した時、一人で立ち向かわなければならない場面もでてくるかもしれない。

サレは自分の力量は掌握していたし、リヴァイの力量を目の当たりにして、不甲斐なさを感じていた。

サレは小さく返事をして下唇を噛んだ。


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