長い夢

□第五章 深まる絆
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イヴは座るなり、ハンジの顔を見て何故か笑顔になった。
さっき見てしまった裸の男達が、急にどうでもよくなった気がした。
だって見てしまったものは仕方がない。男はパンツさえ履いていれば羞恥心などないはずだ、何故か急にそう思えた。


「ん? なになに? 顔に何かついてる?」


ハンジは突然笑ったイヴに驚いて咄嗟に顔を触った。


「ううん、なんかほっとした」


イヴは顔を触るハンジを見て微笑みながら言った。
ハンジの顔を見ると何もかもプラス思考に考えられる気がするし、気分が落ち着く気がする。
今までずっと一緒にいたから気付かなかった。それだけ親友には心を許していたのだ。
二人になると完全に緊張がとけて安心した。


「そう? それはよかった」


ハンジは顔から手を離して微笑んだ。

思えば、診療所で村人に囲まれ薬を調合していた時、温かく優しい村人に感謝を受けて嬉しかったけど『自分は医者ではないのに』と居たたまれない気持ちで作業していた。
確かに知識と腕に自信はあった。
でもどこか不安もあったし、早く皆に追い付かないといけない焦りもあった。
そんな時、グラン分隊長に声をかけられて嬉しかったけど、それでも一番顔を見て嬉しかったのはハンジだった。


「持つべきものは親友だね」


「はははっ、どうしたのイヴ! そうだ、今日回った村人の中で一番印象に残ったやつ教えてよ」


イヴは笑顔でハンジの顔を見て言った。
ハンジは照れ臭そうに笑いながら身振り手振りを交えて目の前のイヴに問いかけた。
イヴはその問いかけに、右手を顎に当てて少し考えて答えた。


「うーん、そうだなぁ......あ、90歳のカリカリのおばあちゃんかな!」


「90?! それすごいね! 人類の寿命越えてるよ」


「でしょ! 私もビックリしたんだけどさ......___ 」


ハンジが目を丸くしたのを嬉しく思いながら、イヴは今日の事を話した。

何だか久し振りに二人で笑った気がした。こんなに笑ったのは訓練兵時代以来な気がする......。



一通り話し終えて笑い合っていると、グラン分隊長が扉を開けて広間に戻ってきた。
そしてハンジとイヴか座っている間の机の前に立ち、水のたっぷり入ったボトルを机の上に差し出すなり声をあげた。


「何だか楽しそうでよかった! 話戻して悪いんだけど、井戸から風呂場覗いたら、結構大変そうでさ。リヴァイが結構取ったらしいがカビとヘドロがすげぇらしい。まぁあと一時間あれば入れるぐらいにはなりそうらしいが、俺も井戸の方から手伝ってくる。あ、イヴちゃんは休んでていいからね......ハンジは今日の日誌つけとけ」


「はは、了解です」


ハンジはあからさまにイヴとの扱いが違うと思ったが、まぁ今日はほとんど何もしていないし仕方ないと思い承諾した。


「ありがとうございます、グラン分隊長」


イヴは何か吹っ切ったような笑顔で分隊長に言った。

グラン分隊長は目を丸くしてイヴを見た。
驚くほどにイヴの笑顔はいつもより輝いて見えた。
ついさっきまで男の裸を見て動揺していたというのに、それだけ親友であるハンジの力は強いんだろうか。
それに微笑み返すと、グラン分隊長は頭を掻きながら外へ出ていった。


「あ、そうだ! サレの自信作、どうしよっか?」


ハンジはまた二人きりになった食卓でイヴに声をかけた。
ハンジはどうやら小腹が空いているらしい。今さっき笑ったからだろうか。
イヴは苦笑いして答えた。


「食べていいよ。あ、でもせっかくだから一口だけもらおっかな」


ハンジは小さく「よっしゃ」と言い、袋からパンを取り出した。
それを一口イヴが食べると、ハンジは残りを一瞬で平らげた。

イヴはその様子を見届けて、台所に置いていた表に日誌とだけ書かれた真っ新なノートを取り出した。

日誌をつけることは別に上からの規定ではない。
だが、まとめて報告書を書くときに思い出せるようにと、毎日食事と馬の担当でないメンバーが日誌をつけるようにする。
これもまたグラン分隊長の決めたことだった。


「いいことだけどさ、面倒くさいね」


ハンジはイヴがノートを持ってきたのを見て言った。
イヴはそれに笑顔で答えた。


「私は日記みたいでワクワクするよ、毎日違う人が書くんでしょ? 交換ノートみたいじゃない?」


イヴは訓練兵の時、ハンジと死んだ彼と3人でその日あったこと等を書いて回していた。
それはハンジが渡してきた今日の出来事と心情を書いたノートから始まったのだが、自分のことを書くとなんだかスッキリしたし、それに返事をもらえると嬉しかった。
どんどんページが増える度、早く自分に回ってこないかと思ってワクワクしていたことを思い出した。


「はははっ! なるほどね、そう思えば楽しく書けるよ」


ハンジも思い出したのだろうか。
ハンジは目を輝かせてイヴからノートを受け取って1ページ目を開いた。
そしてポケットからペンを取り出すと、にやにやしながらすらすらと書き始めた。


イヴはその様子を微笑みながら見守った。
そしてふと、昨日の掃除の後で部屋に飾った時計を見ると、時刻は3時半を回っていた。

4時をすぎたら夕食の支度をしようと決めて、イヴは机に頬杖をついてハンジのペンを眺めた。


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