短い夢

□紅茶の香り
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「エルヴィン団長、髪伸びるの早くなりました?」


「ははは、リヴァイに言われたからな、『団長たるもの身だしなみぐらい整えろ』と」


「なるほど」


ここは団長室、団長のエルヴィンは書類に目を通しながら散髪されていた。

そんなエルヴィンの髪を触り、慣れた手つきでハサミを使うイヴは、壁内での団長の事務仕事の補佐役でありスケジュール管理をする秘書のような役目をしていた。


ある日イヴが自分で自分の髪を切って現れたところをエルヴィンが絶賛し、それからエルヴィンはイヴに自身の髪も任せるようになった。


今回何回目だろうか、今までは3ヶ月に1回といったところだったが、今回は前回切ってから1ヶ月しかたっていなかった。


「兵長は月に1回は切りますからね」


「リヴァイも君が切っているんだったか」


「そうです。団長の髪を初めて切った日に言われて、それからです」


「そうか、よほど腕を見込まれたらしいな。まぁ、街の床屋に行く手間が省けるから楽なもんだ」


「ははは、私にはブレードを握るよりハサミとバリカンのほうが合ってるみたいです」


イヴはこの時間が好きだった。
いつもは切迫した空気が、この時だけは軟らかくなるからだ。

何より密かに思いを寄せる彼に触れられる唯一の時間だ。


「後ろはできました。前髪、切りますね」


イヴはエルヴィンの後ろ髪を整え終えると、前髪に取りかかるために前に移動した。

エルヴィンはそれに小さく頷いて答えると、書類から手を離し机から少し離れて目を閉じた。


イヴはそんなエルヴィンの顔を凝視した。

……この瞬間が一番好きだった。

いつもは強張っている彼の顔も、この瞬間は優しく見える。
鋭く青い眼差しはいつもは凝視できないけど、目を閉じてるから凝視できる。

なにより顔が、至近距離にあるのだ。

キス、できそう......

そう思った矢先、


「エルヴィン、いるか」


扉を叩く音と同時にドアを開けてリヴァイ兵長が入ってきた。

中で何をしているのかわかってたかのように、断りもなしに。

イヴはすぐに体勢を整え直して前髪を切りにかかった。


「......珍しいな、この間も切ってなかったか」


リヴァイは一瞬目を丸くしたが、気にせずに中にずかずかと入ってきた。

まだ前髪を切られているエルヴィンは、目を閉じたまま口を開いた。


「リヴァイか、明日は新兵を迎えるからな、整えておこうと思ってね」


「そうか、なら俺も頼む。エルヴィン、このあとイヴに仕事はあるのか」


「......いや、書類の整理を手伝ってもらおうと思っていただけだ」


「ならイヴ、それが終わったら俺の部屋に来い......あぁ、あとこの書類にサインを頼む」


イヴはエルヴィンの前髪を整えながら、勝手に進んでいく話に入ることなんてできず、切り終えると苦笑いしてリヴァイに向き直った。

リヴァイはいつの間にか机の前に来ていて、書類を机に差し出してきた。

イヴはその書類を見るなり小さくため息をついた。


「......リヴァイ兵長、また紅茶の経費申請ですか。つい1週間前にも見た気がしますけど」


イヴは別にリヴァイ兵長が嫌いなわけじゃなかったが、一番のお楽しみのところを邪魔されたのだ。

心の中では小さく舌打ちしていた。


「お前に分け与えたので最後だった、俺はどこかのクソメガネの様に経費を使い荒らしたりしてねぇしな」


リヴァイはそんなイヴの心情を察したのか、イヴを睨んできた。

イヴはそれに耐えきれず、エルヴィンに助けを求めた。

確かにリヴァイ兵長には紅茶をよくいただいていた。
むしろ自分が飲みたくなって一緒に注いでやることもあった。

反論などできない。


「......団長ぉ」


「ははは、紅茶あっての人類最強だからな、いいだろう。サインしてやってくれ」


エルヴィンは手鏡で自分の整った髪を覗いた後、優しく微笑んで答えた。


イヴはそんなエルヴィンの姿も好きだった。

自分が整えた髪をいつも笑顔で確認してくれるその顔が、堪らなく愛しいと思えるから。

イヴはそんなエルヴィンを見ながら笑顔で答えた。


「わかりました」


そんな二人を目の前で見ていたリヴァイは、どことなく苛ついていた。


「......」



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