長い夢

□第十二章 第四分隊副長
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「モブリット?」


リヴァイがまるで自分の部屋にいるようにイヴの部屋の机の前の椅子に腰掛け、ハンジを呼びにいったイヴがハンジを連れてドアから入ったところで言ってきたものだから、何を話すか聞かされていなかったイヴもハンジと共に声を上げて目を丸くした。

名前を聞き返した二人の声は面白いほど完璧に被っていただろう。

それでもリヴァイは淡々と話を進めた。


「代わりにナナバは班長にする。エルヴィンにはもう伝えた。明日から仲良くするんだな」


「えっ、ちょっ、突然すぎて開いた口が塞がらないよ。明日から? モブリットは承諾したの?」


ハンジはドアの前で立ち止まっていたが、リヴァイの台詞を聞いて頭を掻いた。

まぁなんとなく副長決まったのかなと思ってはいたものの、あまりにも唐突過ぎてハンジは理解するのに時間を要したようだ。

知らされていなかったイヴもハンジの隣で呆然と立ち尽くしていた。


「もう決めたことだ。要件は伝えた、帰っていいぞ」


そんな二人の反応を気にもせず、リヴァイはまた淡々と言った。


「え、早っ! ここに来て10秒しかたってないよ? リヴァイの部屋かと間違えそうになるくらい堂々としちゃってるけどさ、ここイヴの部屋だからね」


ハンジは咄嗟に突っ込んだ。
その隣でイヴは苦笑いした。

だって全くその通りだ。リヴァイが椅子に腰掛ける姿はいくら彼氏とはいえ、イヴでさえも自分の部屋かわからなくなる程自然なのだ。

しかも淡々と言ってのけ、ハンジの相棒と化しつつあったナナバを奪ってつけた副長が、あの真面目なモブリットとは驚くのも無理はない。

二人には想定外だった。


「他に何を話すことがある? 帰らねぇなら俺が帰る......イヴを連れてな」


「いやいや、つれないなぁ......そんなにイチャイチャしたいのかい? 欲求不満じゃあるまいし。私達の仲だろ?」


小さくため息をつきながら言ったリヴァイに抵抗するように、ハンジはリヴァイに向かって堂々と言った。
そしてハンジは小さく笑いながら歩き出したかと思えば、イヴのベッドに腰かけた。

その様子を見てイヴはまた苦笑いした。
中々威圧的なリヴァイの言うことに反抗できるのはハンジぐらいだろうか。

人の部屋を堂々と使うのはリヴァイだけでなくハンジも同様だ、イヴは半ば呆れながらも少し感心した。

リヴァイはというと、眉間に皺を寄せてハンジを睨んでいた。


「はぁ......いちいちうるせぇな、クソメガネ。欲求不満って言葉はお前には無用だろうな」


今度は大きくため息をついて、リヴァイはハンジに返した。


「まぁ、そうだね。私はいろんな好奇心で溢れているからね、私には必要のない欲求なんだ」


ハンジは怯まずに答えた。
もう何の争いかわからない。
何だこの会話......イヴは心の中でそう呟いた。


「あぁ、でも巨人を研究できない不満はあるよ。巨人捕獲のことチラッとエルヴィンに言ったらさ、『怪我をしないようになってからだ』って言われちゃって! そりゃごもっともな意見だけどさ、前までの調査兵団に比べて予算はかなり集まってきてるんだから、できると思うんだよね。研究しなきゃわからないことも多くあるんだからさぁ! ほら、これって欲求不満だ」


「......」


話を続けて言い切ったハンジに、リヴァイは言い返す言葉を失った。
完全に話を切り替えられ、ハンジはもう三人で話をするモードに入っている。
こうなってはもう一人で部屋を出ていくしか手段はない。

イヴは呆気に取られたリヴァイを見て口を開いた。


「ハンジの欲求不満は別の欲求不満だよね。......とゆうか、ここ私の部屋だからね? 私は今一人で読書したい欲求不満だよ?」


「え、また勉強する気? それは不必要だよ。ねぇ、リヴァイ」


ハンジは答えてリヴァイを見た。


「......」


リヴァイは無言で真っ暗な窓の外を眺めだした。

イヴはそんなリヴァイを一瞬見て、苦笑いしながらハンジに向き直った。


「読書は勉強じゃないよ。ハンジだってさっき読書してたじゃない」


「ははは、そうだった。そう言われたら続き読みたくなっちゃったよ! まぁお二人は仲良くしてよ」


ハンジは笑いながらそう言って立ち上がった。
そしてそのままドアの方に歩き出したかと思えば、手を振って部屋から出ていった。

......ハンジはきっと、巨人捕獲作戦立案を断られたことを愚痴りたかったのだ。

“チラッとエルヴィンに言った”とは言っていたが、長々とレポートを書いていたのをイヴは知っていた。

きっとそのレポートはボツとなったのだろう。

イヴは苦笑いしてハンジを見送った。


「......」


部屋にはリヴァイとイヴの二人になったわけだが、リヴァイは相変わらず堂々と椅子に座っていて出ていく気配はない。

さりげなく“読書をしたい”と訴えたはずなのに、きっとリヴァイはその欲求を満たしてはくれないだろう。
きっと「読書はあきらめろ」とか何とか言われるはずだ。

ハンジがいなくなって数秒後、イヴはそう思いながらリヴァイを振り返った。


「......読書はあきらめるんだな」


リヴァイは振り向いて目があったイヴを見て口を開いた。

そんなリヴァイを見て、イヴは思わず笑った。
だって予想通りのことを言われたのだ。


「言うと思った」


イヴはそう言ってリヴァイの座る自分の椅子に歩み寄った。


「ハンジから聞いたよ。お疲れ様。......大量の書類片付けてたんでしょ? 目の下の隈酷くなってるし、今日は早く寝たほうがいいんじゃない?」


イヴは優しく言うと、リヴァイを椅子の背もたれごと後ろから抱き締めた。

リヴァイはその優しい温もりに目を瞑った。
......まぁ、悪くない。
これだけで癒される気もするが、これではイヴの言いなりだ。
このまま「はい、そうです。疲れたので帰って寝ます」なんて言うもんか。

リヴァイは目を開くと自分の胸元にあるイヴの手を握った。


「ああ、疲れた。だから欲求不満だ」


「......意味がわからないんだけど」


イヴは苦笑いした。
このまま引き下がるわけがないとは思っていたけど、疲れているはずなのに逆に欲求不満とは何なんだろう。

疲れると癒しが欲しくなるのはわかる。
それを求めてくれるのは嬉しい。

......あぁ、読書がしたかった。

そう思いながらも、握られた手は温かくて心地よさを感じた。
......何てズルイ手なんだ。
この感触だけで、その気にさせるのだから。
イヴはもう、リヴァイの言うことを聞くことにした。


「恨むならハンジを恨め」


リヴァイはイヴの手を握ったまま振り返って立ち上がるなり、呆然としているイヴの唇にキスをした。

イヴは拒むことなく入り込んでくる舌も受け入れ、そのまま彼に体を預けた。


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