長い夢

□第六章 告白
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満天の星空の下、一人二杯の酒を飲んではしゃいだ後、酒のお陰か眠気が襲い各々が部屋に戻り眠りについた。


次の日の朝


朝食を食べ終えた一同は外に出て馬の手入れをしていると、ルーク班が荷車を3台曳いて応援にきた。

久し振りに見るルークはすっかり班長らしくなっていた。
ルークはグラン分隊長を見るなり目を見開いて声をあげた。


「グラン分隊長! ちょっと見ない間に何か男前になりましたね! その顎の髭、いいじゃないすか」


グラン分隊長は顎の髭を触って得意気に笑った。


「ふふふ、いいだろう! イヴちゃんの提案で生やしてみた! お前もすっかり班長だな」


「はは、おかげさまで」


ルークとグラン分隊長は目を合わせて笑いあった。

その後ルークはグラン班のメンバー一人一人と一通り話して、荷車にできあがった木材を積み上げた。

一台に10本積むと、5台の荷車で合計50本運ぶことができそうだ。
シガンシナ区まではこの荷物だと真っ直ぐ行って2時間程度だろうか。
帰りはもっと早く帰れるだろうし、2往復で済むことを考えると、やはり1日で終わりそうだ。

馬二頭を操作する人と荷車の木材を支える人、5台合わせて10名でいけるため、ルーク班6名とグラン班の男4名で行くことになった。

イヴとハンジは民家の片付けをすることになり、男4人のグラン班とルーク班は早々に馬を走らせてシガンシナ区へ向かった。


イヴとハンジは一通り片付け終えると、村人にお礼を言いに村の中心に出向いた。

「寂しくなるよ」「元気でね」「頑張ってね」「拠点できるといいね」「また来てね」と行くところどころで言われ、何だか涙が出そうになった。
イヴは最後となる薬を配って回った。


昼一番に空になった荷車を曳いて、ルーク班と共に男達が戻ってきた。
朝と同じようにまた木材を積み上げると、何もなくなった民家の前の庭となる場所は、何だか物寂しく感じた。

適当に昼食を済ませ、再びシガンシナ区へ馬を走らせている間、イヴとハンジはがらんとした食卓の椅子に並んで腰かけて日誌を開いた。


「なんかお尻のことばっか書いてるよね。何、この追伸......! 」


「本当にっ! 3回は蹴られてるよね......はははっ! おかげで硬くなったよ! リヴァイも全然容赦ないからさ。っていうか、グラン分隊長イヴのことばっかだし」


「分隊長って恥じらいとかないのかな......リヴァイの文章なんて短すぎるよね、サレはすごいまじめで長いのに」


イヴとハンジ指差しながら、一つ一つの文章を読んで笑い合った。


「ホランって本当ハンジのこと好きなんだと思うよ。昨日は結局否定して終わったけど......最後なんてホランの話ばっかだったよね」


「ははは......やめてよ、それはないって」


ハンジは苦笑いした。
イヴは親友の真意が聞きたくなった。今までハンジから一度もその手の話を聞いたことがなかった。


「ハンジは実際どうなの? 」


「どうって......私は巨人にしか興味ないんだよ」


ハンジは一瞬考えて言った。
イヴはその返事に首を傾げた。


「本当に人類と付き合う気はないの? リヴァイも言ってたけど、お似合いだと思うけどな」


「それを言うなら、イヴはどうなの? あいつがいなくなってから結構たつし、そろそろ次の恋愛もいいんじゃないの。それこそイヴのタイプに当てはまるリヴァイか優しいサレが......」


「私は......私の話はいいから、ハンジの話聞かせてよ」


「あはは、本当に私は興味ないんだよ! イヴはモテるんだし、恋愛しないともったいないと思うよ」


イヴは一瞬リヴァイの名前が出てドキッとした。
確かに自分の言った好きなタイプに当てはまる。日誌では受け流してはいたものの、もしかしたら気付かれているかもしれないと思った。

それでも話す気はなかった。
今はハンジの話を聞きたい、だけどハンジは一度話をそらしたら頑固だ。
こうなったら絶対言ってくれない。
自分はいろんな感情に悩まされているというのに、ハンジは本当に興味がないのだろうか。

......そんなわけはないと思う。
もしも悩みがあるなら聞きたい。
イヴは自分ばかり助けてもらっている気がした。

人類は自然と恋愛感情を持ってしまうものだ。

イヴはリヴァイが好きだと完全に気付いた時に、そう決めつけていた。じゃないと、あの時恋愛感情は持たないと決めた自分の意志が弱すぎて、今リヴァイに恋愛感情を持ってしまっている自分が醜くなる。

だが、実際巨人に興奮しているハンジは本当に興味がないのかもしれない。
イヴはハンジは奇行種だと諦め、そらされた話題の方には触れずに答えた。


「わかった、ハンジは奇行種が好きなんだもんね......ホランも奇行種みたいだと思うけど」


「ははははっ、ホランはただの変態だろう! 奇行種のほうがよっぽど可愛げあるよ」


ハンジは笑いながら、パラパラと日誌の最後となるページをめくった。
親友ながらそんなハンジの感情は中々読みづらい。


「ははははは、よかったね、2週間後には本物の奇行種に会えるかもしれないね」


イヴは半ば棒読みで言った。
そしてハンジがめくった最後のページの一番下に、ホランが一言書いていることに気付くと、小さく鼻で笑った。

何だか遊んでいた内容と追伸のほうに目が入って、任務をこなした内容が全然入ってこなかった。

今から内容を整理して報告書を書き上げようと思っているのに、ほとんどこのノートは意味をなさないかもしれない。


「本当に交換ノートになっちゃったね、このノート」


イヴはノートに書かれた内容を読んで笑いながら言った。


「あはは、確かに。まぁ、最初と最後繋げば報告書書けるよ!」


ハンジは言いながらまたページを最初に戻して、1枚の紙を前にしてペンを握るイヴにノートを差し出した。


「イヴなら一瞬で書けちゃうよね、お願いします、イヴ先生! 」


「もう、恥ずかしいから先生って言うのやめて」


イヴはノートを受け取りながら顔を歪め、ペンを動かし始めた。


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約4時間後、空になった荷車を一台だけ曳いてグラン班の男4人が戻ってきた。
ルーク班とはシガンシナ区で別れ、そのまま真っ直ぐ本部へ戻っていったらしい。


ハンジとイヴはとっくに報告書を書き終えて、食卓の椅子に座って二人で日誌を読み返して笑い合っていた。


「あ、おかえり! 水入れてるよ」


ハンジはそろそろ帰ってくると思って4つのコップに水を注いで食卓に並べていた。

日誌を読み返していると、一日一日の出来事が思い出されて話題は尽きなかった。
笑いながら30分程で報告書を書き終えて、それから3時間以上たつというのに未だに五十日目あたりを読んでいた。

その様子を見た男4人は呆れながら水の入ったコップを手に持った。


「俺達はひたすら馬走らして、ついたらついたで力仕事してきたってのに......お前ら女二人は呑気だな」


ホランは食卓に開いて置いてある日誌を見ながら、コップを片手にハンジの前に座って言った。

そこにグラン分隊長がホランの隣、イヴの前に座って水を飲んだ後に言った。


「おっ、報告書書いてくれたんだな! 役に立ったか? 日誌は」


「はい、かなり......っ! はははっ! いや、笑えるよね! カードゲームばっかしてるよ! これ団長に見られたら怒られそうだよ! はははは!!」


ハンジが笑いながら答えると、ホランは飲んでいた水を吹きそうになった。
そういえば、そんなことばかり日誌に書いていた気がする。


「まぁ色々あったよな......名残惜しいけど、とりあえず暗くなる前に帰ろうぜ。日誌はまた読み直そう」


ホランは姿勢を立て直して言うと、全員が頷いた。


「そうだね、荷物積もうか」


イヴは気を取り戻し、日誌を閉じて席を立った。


それから全員で荷物を荷車に積み、忘れ物がないか最終確認に何もなくなった民家の中を探索した。

イヴは何もなくなった女部屋を見渡すと、最初に大掃除をした時のことを思い出した。
あの時すでにリヴァイを意識していた。

思い返すとこの72日間、リヴァイを意識しない日はなかった。
食事の担当を一緒にする度、日誌に名前があがる度、二人で作業をする度、どんどん惹かれていった。
粗暴なところすらも、口が悪いことすらも、嫌いになるところなんて一つもなかった。
一つ一つ黙視する毎にどんどん思い出が蘇ってくる。

また戻ってくることができるなら、ここに戻ってきたい。
調整日には、ここに来て村人を見て回ろうか。イヴはそう思って家を出た。


全員が馬に跨がると、グラン分隊長の一言で全員が一斉に馬を走らせた。

一番後ろを走っていたイヴは村を振り返ると、心の中で「ありがとう」と呟いた。


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