長い夢

□第二章 大掃除
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......馬に乗っていた。


それは壁外調査からの帰還中。


どろどろになった自分の手の中に、布にくるんだ大きなものを抱えて泣いていた。


その布の中身はもういなくなった彼の腕。


隣で馬にゆられる親友も一緒に泣いていた。


気づけば見覚えのある門が見えた。


先輩達の背中を追って中に入り門が閉まると突然目の前に現れた上司に言われた。


「泣く気持ちもよくわかる、今の内に泣いておけ。だが今日限りだ。亡くなった兵士の意志を継いで強くなれ」


言われてはっと我に返った。





________




「......」


目が覚めると女子寮の自分のベッドの上だった。

何故か隣にハンジが寝ている。

時計を見ると時刻はもう10時だった。
そういえば今日は調整日だ。

イヴは重い体とぼーっとする頭を感じて枕に顔を埋めて再び目を閉じた。


......夢を見た。

入団して初めての壁外調査の夢。


当時訓練兵から付き合っていた彼氏がいた。

自分が調査兵を選ぶというと付いてきた。彼は成績上位だったから安全な道を選べたのに。

初めての壁外で彼は巨人の口の中で死んだ。

残ったのは片腕だけだった。


もう思い出さないように、強くなれるように、心の奥底に閉まっていたはずだった。


訓練兵の時は成績上位で強かった彼なのに、あっさり死んだ。

自分もいつ死ぬかわからないし、
次は誰が死ぬかもわからない。


だからもう恋愛感情は持たないって決めた。

もうあんな苦しい思いをするのは嫌だから......。



そんなことを考えていると、突然リヴァイのことが脳裏に浮かんだ。

すると昨日の帰り道のことを思い出し、急に恥ずかしくなった。


強引に腕を組んでしまった。
何だかすごく喋った気がする。
きっと引いてしまったと思う。
次どんな顔して会えばいいんだろう。

昨日は何故か彼と話すと胸が高鳴った。

そんな恋愛感情に似た感情に、イヴははっとした。
もうこんな感情は持たないって決めたのに、しかもたった1日関わっただけのまだ素性の知れない相手に何を思っているんだろう。


とりあえず今日が調整日でよかったと思いながらイヴはゆっくり起き上がり、隣で眼鏡をかけたまま寝ているハンジの眼鏡をそっとはずして枕元に置いた。


昨日はきっと壁外からの帰還後だったしどうかしていただけだ。


そう思った。





________




次の日の朝



「おはよう」


「......ぁあ」


朝礼のため広場に集合し、班ごとに列に並んでいた。
イヴの並ぶ列は、グラン分隊長を先頭にルーク、ホラン、サレ、ハンジと続いている。
ハンジの後ろにイヴはつき、その後ろにきたリヴァイにイヴは挨拶をした。


飲み会から1日たったおかげか、案外普通に挨拶できた自分にイヴはほっと胸を撫で下ろして前を向いた。

リヴァイは目の前にいるイヴの自分より小さな背中にある自由の翼を眺めた。



リヴァイは自分の感情に気付いていないわけではなかった。
グラン分隊長にサレと同じように自分もイヴに惹かれている。
だが一昨日の夜、イヴは恋愛感情は持たないって言った。
酔っていたものの、それは本心なんだと思った。
だからこれは醜い感情だと思うことにした。
それにこんな感情に泳がされているなんて死んだ仲間に申し訳ないと思う。
するとリヴァイは自然に胸の高鳴りを抑えることができた。



時刻が朝礼の時間になるとすぐシャーディス団長が前に立ち朝礼が始まった。


「今回の損害で上に立つ兵士が2名失われた......。ここで班長に昇格する者を公表したいと思う! ルーク・ファン!」


「! はっ!」


突然の公表にグラン班一同は目を丸くした。
ルークは驚愕したが何とか握った右手を胸にあて背筋を伸ばして返事をした。


「お前はこれまで8回の壁外調査で実績を上げている! 本日より班長となり班をまとめていただく! 今後の活躍に期待する!」


「はっ!」


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朝礼が終わり、グラン分隊長は直ぐに後ろを振り返ってルークの両肩を握った。


「ルーク! おめでとう!」


「あ、ああ......ありがとうございます」


ルークは未だ唖然とした様子で口を開いた。それに続いて後ろからホランが言った。


「ルークさん、おめでとうございます! ただ少し寂しくなりますね」


ルークはやっと現実を受け止めたのか、調子を取り戻して答えた。


「おぉ、ありがとう。ホラン......何か信じらんねぇよ」


「本当信じられないけど、ルークなら大丈夫だよ! 頑張ってね」


ハンジが後ろから声をかけた。


「おう」


ルークはハンジに目をやった後、その後ろで腕を組んで立っているリヴァイを見た。


「リヴァイと一緒に任務ができねぇのは残念だけどな......何とか頑張るわ。お前らも頑張れよ」


ルークはそう言い残し、グラン分隊長に深々と頭を下げて発表された自分の班員の元へ歩いていった。
その背中を見送ってグラン分隊長は口を開いた。


「ルークがついに上に立ったか! 嬉しいことだが寂しいな......よし、お前ら気持ちを切り替えろ! 次の任務に向けるぞ」


「「はい!」」


イヴは何も言えなかったがこんな嬉しい別れもあるのだと知り、ルークの後ろ姿を見て自然に笑顔になった。


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