文豪達に溺れて

□運命論者の悲しみ
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あの後、太宰と共に敦達を医務室へと運んだ。








疲れたよ、何だかんだ云って久しぶりに龍之介と会ったからね...


あたしの意識は何処かに飛んでいってしまった。










敦はベッドの上で目覚めた。




「ここは...」


辺りを見渡し呟く。




「気づいたか、全くこの忙しい時に...」



国木田である。
国木田が近くのパイプ椅子に腰掛け手帳を開いていた。





「僕、マフィアに襲われて...それから...」


辿たどしく、記憶を遡らせる。




「そうだ!谷崎さんにナオミさんは!?」



ばっと起き上がって国木田に問う。



「無事だ。隣で与謝野先生が治療中ーーー」


手帳の頁を捲(めく)ってすぐに隣の部屋から悲鳴が聞こえた。




「.........ち、治療中...?......あ、凛さんは?」



「そこだ」



国木田が顎で指す。

そこは敦がいるベッド。


敦は少し視線をずらした。


そこにはベッドの端に頭を乗っけて小さく規則正しい寝息をたてて寝ている凛の姿があった。



「異能力を使いすぎて今は寝てるみたいだ」



「異能力...?」




「ああ。凛がお前に負担をかけないように異能を使いながら探偵社まで戻って来たらしい」



「...そうだったんですか...」


敦は視線を凛に落とした。



「そう云えば聞いたぞ、小僧。70億の懸賞首だと?出世したな。マフィアが血眼(ちまなこ)になるわけだ」



国木田は真剣な眼差しへと変わる。



「そうです!どどどどどうしよう!!マフィアが探偵社に押し寄せて来るかも!!」




「狼狽えるな。確かにマフィアの暴力は苛烈(かれつ)を極める。だが、動揺するな。動揺は達人をも殺す。師匠の教えだ」




敦はちらりと国木田の手元にある手帳を見た。




「あの......手帳さかさまですよ」





国木田はさっと逆さまの手帳を元に戻す。



「俺は動揺してない!」



椅子から立ち上がり、敦に詰め寄る。





「んぅ...」




凛から声が漏れる。




それに全く気づかない2人。



「マフィア如きで取り乱すか!仮令(たとえ)、今ここが襲撃されようと俺が倒す!」




国木田の口調は相当焦っているようだ。




「あれをこうしてこうばしっと動き、いい感じにぐっとやって倒す!」


1人でマフィアに襲撃された際の想像しているのか、身振りしながら云った。



説明が分かりにくくなっている。



敦は自分を責めていた。



「奴らは直ぐに来るぞ。お前が招き入れた事態だ。自分で出来る事を考えておけ」




国木田は部屋から出ようとする。



「ところで小僧。先刻(さっき)から探しているのだが眼鏡を知らんか?」




実は国木田の頭の上に乗っかっているのだった。












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