◆刀剣・刀さにNL小説◆

□【三日月】監獄の秘めごと・ニ稿
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 三日月はどこにいるのだろう。審神者はきょろきょろとしながら彼を探す。彼がいそうなところを手当たり次第に見て回ったが、その姿を見つけられず、彼女は気落ちしていた。あまりの心細さに、我知らず審神者は彼の名前を呼ぶ。

「三日月さん……」

 心の内でのみつぶやいたつもりが、か細い声となって漏れ出てしまった。やはりそれほど、三日月の不在というのは、審神者にとって心細いことなのだろう。けれど。

「あ!」

 彼女はやおら声を上げた。探し求めていた後ろ姿を見つけたのだ。見慣れた瑠璃の狩衣に月に星の紋。間違いなく三日月だ。きっと自分の本丸の彼だと、審神者はその背を追いかける。しかし、なかなか相手との距離は縮まらない。

 そうこうしているうちに、いつのまにか審神者はひとけのない場所に迷い込んでいた。鬱蒼とした林の中だ。

 演練会場にこのような場所があったのかと意外に思いながらも、審神者は歩みを進める。しかし、そのとき。黒い人影が彼女の背後に舞い降り、その首筋に手刀を食らわせた。

「……悪いが、これも主命なのでな」

 あまりにもあっさりと、言葉もなくくずおれた彼女を抱き止めながら、そう呟いたのは。打ち刀の付喪神たるへし切長谷部だった。もちろん彼は、少女の本丸の長谷部ではない。

「……手間をかけたな、三日月宗近」

「いや、俺も楽しかったぞ」

 少女を抱えた長谷部の呼びかけに呼応して現れたのは、なんと三日月宗近その人だった。瑠璃の狩衣も打除けの月が浮かぶ瞳も全て、少女を想う彼と同じ。

 けれどこの三日月は、例の両刀使いの青年の本丸の彼であった。同じ男を主にもつ長谷部に、三日月は愚痴をこぼす。

「全く、わが主はとんでもないな。俺たちだけではあきたらず」

 しかし、そんな三日月を長谷部は窘める。

「だが主は主だ。我々は従わなくてはならない」

 長谷部のあまりにも彼らしい台詞に、三日月は苦笑した。

「主命とあらば、か? そなたの忠誠心には恐れ入るよ」

 三日月らしい柔らかな揶揄だ。しかし、長谷部はそれには取り合わない。

「――戻るぞ」

 低くつぶやいて、長谷部は少女を抱えて姿を消した。

「仕方ない……な」

 三日月もまた彼を追うように姿を消す。



「――やあすまんな、遅くなった」

 のんびりとそう口にしながら戻って来たのは、少女たる審神者の本丸の三日月だった。

「三日月さん!」

「三日月殿……!」

 石切丸に小狐丸は驚いた様子で彼を迎える。同様に、残る演練部隊の面々も意外そうな顔をしている。てっきり主人と一緒に戻ってくると思っていた三日月が一人だったからだ。

「三日月殿、ぬしさまとご一緒ではなかったのですか?」

「主? いや、俺は知らぬぞ」

 小狐丸と三日月のそのやりとりに、場の全員の顔が曇る。さすがにこうなれば、マイペースな三日月でも異変を察知する。形のいい眉を寄せて、三日月は皆に尋ねた。

「……どうかしたのか?」

「……主は君を探しに手入れ部屋の方に向かったんだけど、見てないのかな?」

 三日月の問いかけに答えたのは燭台切だった。

「俺を探しに?」

「そうだよ」

 二人のやりとりを聞いていた石切丸が、ぽつりとひとりごちる。

「困ったね……」

 幼いながらもしっかりとしている審神者が、黙っていなくなるなどそうあることではない。

「――皆のもの、主を探そうぞ」

 珍しく焦った様子の三日月の言葉をきっかけに、演練部隊は頷きあい、主の姿を求めて散り散りとなった。



 それと同じ頃。少女は薄暗い部屋の中で目を覚ました。頬に触れる固い床の感触、鼻孔をくすぐる埃っぽい嫌な匂い。そして自分の両手首には、冷たい金属製の輪が掛けられていた。これはどう見ても手錠だ。

 異様な状況に驚きつつも、彼女は身体の怠さに耐えながらその身を起こした。

 少女が倒れていたのは、人ひとり生活できる程度の広さの窓のない一室だった。前方に見える鉄格子に、彼女は自分が監獄に囚われていることを理解する。

「ここは……」

 少女が呆然とつぶやいた、そのとき。

「――ようやく目覚めたか」

「っ! あなたは……」

 朗々とした声とともに現れたのは、なんと少女が探し求めていた三日月宗近だった。

 しかし、この三日月は明らかに少女の本丸の、彼女を想う彼ではない。妖艶な笑みを浮かべるただならぬ様子のもうひとりの彼の登場に、少女は身構える。

「ははは、随分とつれない態度だな。先ほどは俺の秋波にあんなにも可愛らしい反応を返してくれたではないか」

 秋波とは本来は女性の動作の形容なのだが、三日月が口にすると不思議と違和感がなく、むしろさまになってしまう。

 けれど彼の言葉に、やはり眼前の三日月はあの青年審神者の三日月なのだと、少女は確信する。敵方のはずの彼が旧来の友人のように接してくることに、彼女は戸惑う。

 彼がここにいるということは、おそらく自分を攫ったのは眼前の三日月なのだろう。そんな彼がなぜ……。

 そして、そもそも自分はどうして攫われたのか。少女は遅まきながら疑問に思うが、その理由はすぐに明かされた。

「本来は、そなたは俺ではなく俺の主への貢物なのだがな」

「えっ……!?」

 主への貢物。その物騒な言葉に、少女は目を瞠った。しかし、三日月はそんな彼女には構わずに、楽しそうに続ける。

「とはいえ、あまりにも愛らしいそなたを、他の男にただ差し出してしまうなど勿体なかろう? 主に献上する前に俺も味見をしようと思ってな」

 究極のマイペースというのは、どの彼も同じようだ。けれど、次第に不穏になってゆく風向きに少女の額に冷や汗が浮かぶ。人を食ったような笑みを浮かべる彼に、少女の背筋をぞわりとした何かが駆け抜ける。

「味見……?」

 ごくりと唾を呑み、少女は三日月に尋ねかけるが。

「――別の俺と関係を持っていたのなら、構わぬだろう?」

 三日月はそう口にして、まるで当然のことのように彼女をその場に組み敷いた。

「っ……!!」

 石造りの固い床に小さな背を打ちつけ、少女は呻く。例の青年を主に持つ三日月の意外なほどに粗暴な振る舞いに、この彼はやはり自分の本丸の彼ではないのだと、少女は改めて思い知る。

「み、三日月さ……」

 少女は眼前の彼を呼ぶが、やはり取りあってはもらえない。三日月は少女の呼び掛けに応える代わりに、捕縛の呪を唱えた。手錠により縛められた少女の両手首を、監獄の床に縫いとめる。

 いくら幼い彼女といえども、男が女にこのような真似をする意図くらい知っていた。そう、それこそ眼前の男と全く同じ姿かたちの彼に、身をもって教えられたことだ。

 ついに堪えきれなくなった審神者は、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。目の前にいる三日月は自分の本丸の彼とは違う。容貌こそ同じでも全くの別人だ。

 自分の本丸の三日月はもっと優しかった。確かに最初こそ強引だったけど、それでも彼はこれ以上ないほどに自分を大切に扱ってくれた。

 なるべく痛みを与えないように配慮し、不安がる自分を宥めるように何度も愛を囁いてくれていた。

 彼との営みはいつだってめくるめく夢物語のようで、思えばいつも自分は、彼によってもたらされる恍惚の中で、性の頂点を迎えていた。

 自分自身の小さな蕾に三日月の真っ白な熱を注がれながら、彼の手によって悦楽の極みに押し上げられる、甘く切ないひととき。

 自分を見つめる彼の、永遠の月夜と朝焼けとを閉じ込めた宝玉のような瞳にはいつだって、激しくも美しい恋の炎が燃えていた。

 焦がれるほどの想いを、いつも自分に向けてくれていた愛しい三日月。けれど今、自分を見おろす彼はそうではない。

 眼前の彼の、凍てついた水面のような瞳に怖気づいた少女は、彼から逃れようともがいたが。手錠を掛けられた両手首を、まじないで床に縫い止められているこの状況では、やはりどうすることもできない。

 仮に悲鳴を上げたとしても、敵陣まっただ中のここで助けが入るとも思えなかった。

 抗う術も逃げる術もない。絶望のあまり、少女の身体から血の気が引く。もがく気力すらもなくしてしまった彼女は、呆然ともう一人の三日月を見上げた。

 そんな彼女を見おろしながら三日月は満足そうに微笑むと、少女の脚の間に自身の両膝を割り入れて、彼女の衣服に手を掛けてきた。

 少女は前開きの上衣にスカートという出で立ちだった。三日月の手によって少女の上衣のボタンはすぐに全て外された。可憐な胸の膨らみを覆う下着も、その背の留め具を外されて、上方へとずらされた。

 まだもう一人の三日月にしか見せたことのない少女の二つの膨らみが、ふるりと揺れ落ちて、彼とは別の三日月の前に晒される。

「……っ!!」

 少女は恐怖と羞恥に息を呑み、華奢な身体を強張らせる。頬を涙に濡らしたまま、悔しさに唇を噛みしめる。

「――別の俺の想い人は、泣き顔も随分と可愛らしいのだな」

 彼女の真っ白な膨らみの色づいた突端を眺めながら、三日月は喉を鳴らして笑う。

「なっ……!」

 まるで煽るような言葉に少女の頭に血がのぼる。愛する人とは別の男に無理やり上衣をはだけさせられ、裸の身体を見られている。それだけでも耐えがたい屈辱なのに。

「やめてください……!」

 絞り出すような声で、少女は三日月を睨みつけるが。

「そう言われて、やめる男などおらぬよ。まして相手が、こんなにもそそられる女人なら尚更な」

「……!」

 三日月の意外な返答に少女は息を呑む。本当にやめてもらえるなんて、思ってなかったけど。

(――そそられる? あんなにも美しい彼が自分なんかに?) 

 少女は疑問に思うが、すぐに訪れた自分の胸を包み込む冷たい手のひらの感触に、身体を強張らせた。いつの間にか手袋を外していた三日月が、ついに素肌に触れてきたのだ。

 柔らかな胸の膨らみの稜線を確かめるように触れられて、再び少女の背筋をぞくぞくとした何かが駆け抜けてゆく。

 自分でも気づかぬうちに、少女は熱を帯びた呼気を漏らし形のいい眉を寄せていた。

「……っ ……ん」

 そんな彼女の反応に気を良くしたのか、三日月は表情を緩めて笑うと、改めて少女に覆いかぶさった。左腕を床につけて自分の体重を分散させながら、空いた右手で少女の胸の膨らみを可愛がる。

「……触って良しとはこのことだな」

「っ……」

 二つの膨らみを片手で揉みしだきながらこちらを煽ってくる彼に、悔しくなった少女は懸命に身をひねってその手から逃れようとした。

 しかし、その抵抗はやはり何の意味も持たない。彼女の手首を縛める金属の輪が、かちゃかちゃと小さな音を立てるのみだ。

 しかし、そんな彼女の涙ぐましい拒絶など意に介さずに、三日月は行為を進めて行く。少女の柔らかな白肌にその唇を触れさせてきた。

 彼女の鎖骨のあたりには、先ほど三日月によって押し上げられた胸を覆う下着があった。だからなのか、三日月はやにわに少女の胸の頂に吸いついた。

「やっ……! 三日月さん……っ!」

 まさかいきなり、そんなところを責められるとは思わなかった、少女は絹を裂くような悲鳴を上げる。

 しかし、三日月は何事もなかったかのように、平然とした様子で愛撫を続ける。その大きな手のひらと薄く男らしい唇で、三日月は少女の無防備な肉体を味わった。

「やっ…… ああ……っ」

 自分では望んでいないのに。しかし、欲求に素直な肉体は彼女にあられもない声を上げさせる。しかもそれは、不都合なことに三日月の興を乗せてしまった。

「……うむ、なかなかよいぞ。もっとその声を聞かせておくれ」

「ひゃあ…… んっ」

 むき出しの乳房の先端に強く歯を立てられて、少女は再び悲鳴を上げる。

「三日月さん…… やめて……っ!」

 半裸の身体を切なげによじりながら、少女は三日月に懇願するが、その願いが聞き届けられるはずもない。

 少女はさらに肌を暴かれその肉体を彼に淫らに辿られてゆく。三日月の大きな手のひらが、節くれだった長い指が、少女の無垢な素肌を巧みに嬲る。

「あっ…… やっ……!」

 感じてしまう場所ばかりに触れられた審神者は、華奢な身体を弓なりにしならせてあまりにも可憐な悲鳴を上げる。

 本当は眼前の彼に自分の声など聞かせたくないのに、我慢できない。そんな自分が悔しくて、少女は三日月の愛撫の合間に唇を引き結んでそっぽを向いた。

 せめてもの抵抗だ。良くなっている姿など見せてやらない。しかし、それは逆効果だった。

「……ふむ、声は聞かさぬというわけか。ならば、堪えきれぬようにしてやるまでだな」

 審神者たる少女を組み敷いている三日月は、打ち除けの浮かぶ瞳を眇めて笑う。

 ふたりきりの牢獄で審神者を見おろして酷薄な笑みを浮かべる三日月は、物語の中の美しくも残酷な祟り神そのものだ。少女の本丸の彼とは全くの別の刀のようで、少女は恐怖に色を失う。しかし、そのとき。
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